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13


明け方、うたた寝をしていたヒカルは一本の電話に覚醒した。
空が明るみ始める時間。執事から渡された受話器を慌てて握り締める。心臓を押さえながら受け取ると、電話の相手は月山だった。


「も、もしもし!?」
「やあ、ヒカルさん。体調はどうだい?」
「私は…だ、大丈夫です…あの!あの、それで」
「…落ち着いて、カネキ君は無事だよ。今、隣にいるから代わってあげる。」


声を聞く前から泣きそうになった。実際、もう目頭が熱い。早く会いたい。その声を直に。彼女は逸る気持ちを抑えて努めて落ち着いた様子を装った。


「もしもし、姉さん?」
「研…。研、大丈夫……」
「ごめんね…。色々、話せなくて。今、月山さんとそっちに向かってるから。待っててね。」
「うん…。」


端的だが、電話はそれで切れた。息を吐いて、座り込む。我に返ると、急いで持ってきていた荷物を頼んで出してもらい服を着替えた。
待ちきれず窓から門を見つめる。暫くして、人影が二つ現れた。しかし、遠目にみたその姿は待ち望んだものとは少し違っていた。月山の隣に並んでいたのは、白髪の少年。体が強張った。

―――研。


「姉さん…、無事で良かった。」


ひさしぶりに握った姉の手は、何だかとても小さく思えた。部屋で対面すると、姉は想像通り複雑な顔をしていて、金木研は月山を横目に苦笑するしかなかった。
本意ではないが、今回姉を守ってくれた月山に金木は感謝していた。失わなかった。秘密はばれてしまったがお互いが生きている事が、一番大切だった。


「研…、」


そっと…柔らかい髪の毛を指で梳く。触り心地も、色も違う髪の毛。綺麗だった黒髪が、頼り無さげだった瞳が、今はまるで別人だった。

何があったのか、言葉に出来なかった。
そっと、そっと抱き締める。確かめるように、そこにいるのが、金木研なのかどうか。彼女はにわかには信じられなかった。彼の肩越しにヒカルは月山と目が合う。月山はヒカルに目を細めるとリラックスした様子で壁に背を預けた。


「ヒカルさん、朝食まだだろう?良ければ準備させるけど。」
「…今は結構です。」
「じゃあ珈琲だけ用意しようか。」


相も変わらず厭に冷静な彼に、ヒカルは思わず八つ当たりしそうになる。しかしグッと堪えた。研がこうなったのは、彼のせいではない。けれど、全てを呑み込めるほど大人にはなれなくて。彼女は金木研を強く腕に抱いた。


「姉さん、苦しいんだけど。」
「…ごめん、でもちょっとだけ我慢してよ。」
「…怖くないの?僕、喰種に」
「怖いわけない。傷つけられたって研になら、いいよ。それで研の為になるなら。」


本心だった。弟になら、全てを捧げてもいい。しかし、金木研は浮かない表情でヒカルの背中に手を回した。
月山だけが二人の感情を理解し、一人その様子を眺めていた。恐ろしく不器用だが、引き離したいほどこの姉弟はお互いを愛している。

(…妬けるよ、カネキ君。その女性の心を独り占めする君に。)

いっそ、二人とも壊れてしまえばいいのに。
芳しい薫りに浸りながら、月山は珈琲を喉に通す。その瞳が少しだけ寂しげに揺れた事に固く目を閉じたヒカルが気付く事はなかった。
だが、


「ありがとう、習…。私の家族を…、ありがとう…」


呟かれたその言葉に、月山ははたと顔を上げる。
彼女の瞳はこちらを見る余裕はなかったが、それでも彼は嬉かった。たった一言で、目の前の世界が変わる。


「…De rien.構わないよ、ヒカルさん。」


だって僕は貴女が好きだから。
君が喜ぶことが一番なんだ。
―――――――――――――
2015 01 03

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