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12


目を開けると、辺りは薄暗く、ヒカルはぼんやりとしたまま視線だけを動かせた。
ベッドのサイドテーブルに置かれていたグラスに目が留まる。喉が渇いた。ぐらぐらする意識を堪えて彼女が身を起こすと一人の喰種が側に控えていたのに気が付いた。


「…ご気分は?」
「大丈夫……だと思います。あ、の…私…?」
「…体調が優れなかったようでお倒れに。お飲物をお入れ致しましょう。」
「…いえ、あの。自分で、」
「お気になさらず。私の仕事です。」


水がグラスに注がれるのを見つめながら、ヒカルは大人しくベッドの上に座った。いつの間にか衣服が自分のものではない寝間着に変わっていて急に心細くなる。そっと辺りを見回すが持ってきた荷物は見当たらない。
彼女が俯くと、執事の男性は視線をやったが、何も言葉を発する事はなかった。
喉を潤すと、少し気持ちが落ち着いた。
ヒカルは窓の外を見つめる。青い月が見える。月山は何処へ向かったのだろうか。研は誰に拐われたのか。何も知らされず、ただ守られた歯痒さに下唇を噛む。

――私は何をしているんだろう。

グラスを置いて、ベッドから降りる。無力さに泣きたくなるが、涙を溢すわけには行かなかった。
月山は、彼は研を助けると言ってくれた。力になれないなら、せめて信じて待たなければ。


「…習様から貴女を決して部屋から出すなと申し使っております。多少、窮屈でしょうがお許し下さい。」
「それは私は人間だからでしょうか?」
「貴女はあの方の恋人なのでは?」


彼女が振り返ると、執事は無表情だった。否定するのは得策ではない…気がする。この屋敷にきっと人間はいない。けれど肯定も出来なくて彼女は黙って、窓ガラスからそっと手を引いた。


「…貴女はあの方に心酔しているようではなさそうですね。」
「月山さんと私じゃあまりに不釣り合いだと思いませんか?私は人間です。お金持ちの家でもない。」
「そうですか。しかし、習様は貴女をどうやら愛しているようだ。それも食事としてではなく、貴女自身を。」
「……月山さんの事は…私も好きです。でも…このまま気持ちに任せていいものか…まだ。…ごめんなさい、こんな事、」
「…。出過ぎた事を聞いたようです。」
「いえ。じきに答えを出さなくてはいけない事ですから。……でも、良かった。」
「?」
「喰種も…感情は人間と同じなんですよね。貴方は、月山さんを大切に思っている。」


そう溢して、ヒカルは笑う。その、申し訳なさそうな顔に、相対していた喰種も思わず釣られるように苦笑した。
彼女は理解している。境界線を越えたのは、主に魅せられての事だとばかり考えていたが、どうやら逆だったようだ。
窓際に佇む人間の女性は、儚げな美しさを携えている。本来なら、離れるべき二人であるが。
執事は否定の言葉は発しなかった。
年若い二人の限りなく薄い幸せを一人願って。彼はヒカルのいる部屋を一度退室した。


片足を浸けた秘密の泉は静かにその湖面を揺らしたまま。


―――――――――――
2014 12 20

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