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心の隙間を埋める便り


机の上に溜まった書類。
その山を見て、スモーカーは盛大に葉巻の煙を吐き出した。
ローグタウンに配属されて以来、デスクワークに裂く時間などそうそう取れない。

片付けても片付けても、グランドラインに入ろうとする海賊が街には後を絶たずやってくる。
結果──積み上がる報告書。
その他、軍本部のよりの書類も含めればその量は恐ろしく膨大であった。


「──…どうして勝てねェ勝負を挑むかねェ。」


紙面にサインし、素早く印鑑を押していく。
思わず口をついて出る小さな愚痴。
無機質な白い紙を、無骨な手で捲りつつ彼は本日、何本目かの新しい葉巻に火を点けた。

―――あっ、未成年なのに…!

不意に、思い出された少女の叱責にスモーカーは思わず喉の奥で笑う。
モクモクの実を食べてから、煙を常時くゆらせるのは若い頃からの習慣だった。


「…ヒスイ…」


常に側にいる時は煩わしくも思ったりしたが、出て行ってしまうと寂寥感がじわじわと募った。
騒がしい女ではなかったのに、あの姿が側にないと、周囲が酷く広くて静かに感じた。

──スモーカー少尉!

──スモーカー少佐!

彼女が軍から出て行って、数年。
彼は大佐になっていた。

(お前は今、何してる…──?)

遠い瞳は、どこにいるとも知れない姿を思う。
ふと、片付いてきた書類の間からするりと白いものが舞う。拾いあげればまっさらな封筒。
シンプルで宛名以外の文字は見当たらない。
一瞬、スモーカーは訝しげにそれを見やったが、便箋の端を破り開けた。

顔を覗かせたのは濃厚に香る百合の押し花。
雪のような真っ白な花弁。
それは──彼女が本部にいた頃部屋によく飾られていた種類のものだった。


「───フッ…」


瑞々しさを残すそれは胸にほんのりと温もりを灯す。指先は感触を確かめるよう花びらへ。


「…女の癖に文字位少しは書きやがれ。」


元気かどうか。
ただ一言、それだけでもいいのに。
スモーカーは柔らかい瞳で机にそれを立てかけると、再び作業を再開した。

願わくば、この花が干からびる前に、
また便りが来るように───。

君の無事を願う。
────────
2011 01 10

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