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ノンリセット


時間を遡って一つやり直せるとしたら。
私は何を願うだろう。
船の甲板で海を感じながらヒスイはぼんやり想いに耽る。

―――平凡な女の子?

けれど悪魔の実を口にする前の家族の顔はもう朧気にすら思い出せない。
ガープやスモーカーの存在がそれに当てはまるのかもしれないが、考えてみてもよく分からなかった。


「何を真剣に読んどるんじゃ?」


背後からの軽い衝撃。柔らかく腰に手をまわして、カクはヒスイの読んでいる本を後ろからひょいと覗き込む。


「――人生のリセット?」
「うん。」


耳元でタイトルを囁く声だけで彼が驚いているのが、気配で分かった。
そしてカクはそのままぎゅっと彼女を抱きしめる。


「ヒスイは何かやり直したいんか?」
「んー…どうかな。後悔はたくさんあるけど。」


けれどその後悔から学んだ事も、幸せな事もあった。だから、全てをなかった事にはしたくない。
無意識に側にあった頬に鼻をすり寄せると、くすりと小さな笑みが聞こえる。


「…わしはやり直しはご免じゃのぅ。」
「?」
「この先もたくさん抱えて行くものはあるが、…やり直してヒスイに会えんかったらそれが一番困るわい。」


迷いのないその言葉に、思わず漏れる幸せな苦笑。彼から与えられる溢れるくらいの優しさと愛しさは時折、不安になる程心を揺るがす。

気づいてる?カク。
私が貴方の言葉一つで、どれだけ救われているか。


「…そうね。私も今の私のままがいい。」


読みかけの本をぱたんと閉じる。
カクの唇にそっとキスを落として、ヒスイは少し照れくさそうに微笑んだ。
―――――――――
2011 03 30

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