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その子は僕のもの


微かな寝息をたてて、隣で眠る愛しい人。
前髪を分けると、焚き火に照らされあどけない顔がより露わになる。
穏やかな表情でそれを見つめ続けるカク。
飽きもせずに髪を撫でる彼に、カリファが呆れたように口を開いた。


「――カク、起きてしまうわよ。見張りの交代まで貴方も寝たら?」
「いや、そうなんじゃがの…。なんだか夢みたいで、…寝て起きたらヒスイがいなくなっていそうでのぅ。」


もごもごと言いごもり、肩を抱いてカクはそっと頬を寄せる。力の抜けた細い体はされるがまま。まるでカクの縫いぐるみのようだった。


「放っておけ、カリファ。その女に関してそいつは頭がイカれてる。」


迷惑そうな溜め息。
同時にルッチが冷ややかな言葉と視線を二人に(主にカクに)寄越した。
故郷へ帰るにあたり、最後までルッチは彼女の同行に反対したが、カクの意思はそれ以上に固かった。

エニエス・ロビーの敗戦により追われる身とはなったが、漸く誰に憚る事なく彼女を抱き締められるのだ。
愛していると、やっと告げられて、捕まえた。
もう離すものか。


「何とでも言え。ヒスイを側で愛せるのがわしは今、幸せなんじゃ。」

もう会えないと思っていた彼女が側にいてくれる。伸ばした手を変わりなく、笑って繋いでくれる。
惜しみない優しさをくれる彼女に、カクはどうにか応えたくて必死だった。


「…カク…」


不意に名前を呼ばれてカクは反応するが、ヒスイの瞳は閉じたまま。
いまだ眠りの中で、彼女は口元を緩ませていた。

ヒスイ。
お主は今、わしの夢を見ているんじゃろうか。

抱く初めての感情はうまくコントロール出来ず、本当に苦しい。


「……カリファ。わし、どうにかなりそうじゃ。」
「…フフ、平気よ。死にはしないわ。」


早く、君の声が。笑う顔が見たい。
柔らかな貌で、カクもゆっくり目を閉じる。

わしもお主の夢がみたいのぅ…

夜の帳の中、重なる呼吸。
寄りそう二人の肩に毛布を掛けながら、カリファは仏頂面のルッチを見やる。
コーヒーを口にしている彼は普段と変わりなくも見えるが、どことなく不機嫌そうだった。
元より感情など滅多な事には顕さない、底の知れない男ではあるが……
カリファの視線に気づいた彼は、目を合わさぬまま静かな口調で口を開いた。


「…勘ぐりは止めろと言っただろう。慎め、カリファ。」
「…失礼。」


肩を竦めて、彼女は身を翻す。
ルッチは変わらぬ体制のまま、静かにヒスイをその黒眼に映した。

変わらない。大人になっても、何一つ。
泣いて、笑って。感情的になれるヒスイが、子供心に呆れながらほんの少し羨ましかったのを思い出す。

自分が忘れたものを、彼女は無くさず持っている。
笑い合って肩を寄せるカクとヒスイ。

―――足手まといだ。

彼女を連れていくと言って聞かないカクをそう叱咤したが、…本当は違う。戦闘に関してはここにいる誰よりよく知っている。
二人の支え合う姿―――ただそれが無性に憎らしかった。


『ヒスイ。』


彼女の名を呼ぶのは声なき声。
もしその笑顔が。その声が。
向けられる先が自分であったなら。
それはルッチが本来一番嫌いな"If"

来るはずのない未来の話。
――――――――
2011 02 06

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