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Unknown Target3


一瞬の事だった。
文字通り彼はその脚で宙を蹴り、空を飛んだ。


「うるさいのぅ、まだ休憩中じゃ。」


不安定だった体勢のヒスイをしっかり抱え直すと、ひと飛びでカクは造船島の外壁へ。
後ろで金髪の男が何やら怒鳴りちらしていた気がするが、彼女の伺い知る所ではない。

ごうごうと風を切る音。
ふた跳びで、水の都を一望出来る高さから、カクは彼女を抱えたまま街へ飛び降りた。


「う、きゃああ────!!!!」


これほど声を張り上げるのは何年ぶりだろうか。
縋るものがない場所でヒスイはぎゅうぎゅうとカクの胸にしがみついた。


「…はっ」


我慢できず噴き出した。純粋に驚くその反応にカクは完全に毒気を抜かれた。
瞬発的な反応がいちいち素直で、まるで子供だ。
恐らく自分より年上であるのに、ふとした仕草に幼さが残るヒスイ。まだ出会って間もない彼女に、カクは興味を抱きかけていた。
風に乗り、街を幾度か飛び越えてカクはようやく人気の薄い岬に降りたつ。
そっと…、まだ震える彼女を地に降ろしカクは真正面から視線を合わせた。


「……生憎ワシは今、別件でここで任務中じゃ。ワシの事を口外せず問題を起こさないなら、お主の事にも干渉せんが、どうじゃ?」
「……そ、れは…見逃してくれる、…って事?」


不思議な光を宿す碧眼が、カクを見つめる。
まさか逃がす為にここまで連れて来てくれたのだろうか…?そんな変わり者は昔から知っている白猟くらいだとこれまで信じて疑わなかったヒスイは、相手の真意が読み取れない。
困惑した瞳に彼は不敵に微笑むと首をゆっくり横に振った。


「見逃す、か。さて、それはお主次第じゃのう…」


自身の呟きに慌てるヒスイを眺めて、カクは肩を揺らした。
退屈な日々舞い降りた、スパイス。この踊る気持ちをどうしたものかと、またルッチに報告すべきかと、カクは目の前の戸惑う獲物をみて珍しく判断を迷っていた。
────────
一応終了。…続く、カモ。
2010 12 20

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