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Unknown Target2


掴まれそうになった腕が、震える。
クロノス──自らをそう呼ぶのは軍か世界政府の人間に他ならない。
久しく忘れていた恐怖。きゅ、と鳴る靴底。
次の瞬間。ヒスイは、強烈な蹴りを男目掛けて繰り出していた。


「おっと!」


男はそれを片手で難なく受け止める。
……否、受け止めたハズだった。
だが衝撃を受けた感覚はない。

おかしなのはその視界。


「…な、んじゃ?」


気がつけば、世界が反転し男の瞳には青空がいっぱいに広がっていた。

───やられた。
これが、クロノスの力。時間を自由に操る悪魔の能力。突き飛ばされたのであろう体を慌てて起こすと、屋根から飛び降りようとする華奢な後ろ姿が目に入る。


「剃!!」


蹴り上げた屋根の縁から下を覗くと、風に流れつつ落ちていく体。


「月歩!!」
「──きゃ!」


瞬く間に、空中で捉えられるヒスイの体。
あまりのスピードに視界が追い付かない。重力に対して不規則に浮いて落ちていく奇妙な感覚にヒスイは無意識に男の繋ぎを握りしめる。
眼下に向けられる視線。緑の瞳は、不安と困惑の狭間で揺れた。

(…………こやつ、なんでじゃ?)

男は彼女のそんな行動をつぶさに観察する。
もっと危険な人間だと思っていた。
仮にも世界最高機密レベルの力を持つ女だ。
自らに害なすものは躊躇いなく消すくらいの人間だと。しかし、目の前の彼女は自分を傷つけようとはしなかった。
それどころか、油断はあったとは言えこうして捕まえてみれば、反応はごく普通の女のそれ。
本来、迷う事のないはずの2択が男の心にふつりと浮かぶ。

その思考に割り込むよう、聞こえてきた怒鳴り声は着地とほぼ同時だった。


「何、女とイチャついてサボってやがる!!カク───!!」


破廉恥だ。
例に漏れず、その言葉も添えられて。
─────────
2010 12 20

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