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Unknown Target1


水上都市、ウォーターセヴン。
美しい景観と、活気に満ちた街並みは、そこにいるだけで自然と心を踊らせる。
航海船を降りた後、ヒスイは街の造りを確かめるように水路を渡り歩き、その間、話しかけてくる人々の言葉に耳を傾けた。頻繁に人々の会話にあがる造船所の話題。彼女はやがて思い出したように都市の中心へと歩みを進めた。

世界一とも謳われる、ガレーラカンパニーの造船所。海軍に軟禁されていた頃からその会社の名前は幾度か耳にした事があった。
海軍の船も多く排出している名高い造船所。せっかくここまで来たのだし、一度、見に来てみるのも悪くない。

工場付近にたどり着くと辺りは思っていたより、一般人で賑わいをみせていた。
フェンスで遮られた向こう側に、働く船大工達を皆、楽しそうに見て話に花を咲かせている。


「ルッチさん、今日も素敵だわ〜」
「パウリーさーん!」


街の花形職業からか、女性ファンも多いようだ。
ヒスイは人波を離れ、近くの高い建物にひょいひょいと足を掛けよじ登る。
身軽な体は、その脚力により簡単に重力に逆らった。
少し風に煽られながらも、彼女は無事、屋根の上に登りきり安定した場所に腰を降ろす。

広い工場の中に犇めく様々な型枠の船組み。
微かに響いてくる、金属音。木の匂い。
後、もう少しすればこの船達も自由な海へ出て行くのだろう。
ヒスイはそこから暫くぼんやり工場の様子を眺めていた。


「これはまた…可愛らしいスパイじゃのう。」


───どの位経った頃だろうか。
着地する足音と人影にヒスイはそちらへ瞳を向けた。まんまるの黒眼が彼女の碧眼の奥を覗く。
男に敵意は感じられない。
ヒスイは、驚いたものの努めて静かに立ち上がり彼に緩く一礼した。


「ごめんなさい…ここから見てちゃ駄目だった?」


申し訳なさげに下がった眉に、男は首を横に振る。


「いいや。それは別に構わんよ。……じゃが、」


黒い目は感情を読ませない。
ゆっくりと。確かめるように、上から下へ視線が彼女に注がれた。


「"クロノス"が、こんな所で何しとるんじゃ?」


久しく聞いた略称に人知れず心臓が大きく音をたてた。
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2010 12 20

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