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09家族


「お前、アニキってポジショニング、いいよな。」
「なんだ、急に。ドフィはあいつの兄になりたいのか?」
「…いや。だが、確約された絆があるだろう。いつでも同じ屋根の下で生活をする権利があって、毎日、当たり前のように顔を見られる。正真正銘本物のファミリーだ。」
「…そんな風にまじまじ考えた事がないからよく分からないが。あいつは昔から手の掛からない妹だったよ。頭は良かったし、周りを困らせるような事もしなかった。」
「だろうな。」
「だが、最近は何だか少し変わったな。変わったというか…感情が前より豊かだ。」
「ふぅん、」
「お前が現れたからかもしれないな。」


風呂上がり。ヴェルゴは微かに笑って、髪をタオルで拭いた。
ドフラミンゴはかつては見なかった穏やかさを彼に見る。平和に満たされたこの世界はあの頃と同じくもあり、また異質でもある。
あの少女は、近くにいるのに遠い。それは今もあまり変わらない。かつてはいつでも意のままにこの手に抱けた彼女。だが、心はいつも違う所にあった。


「…ドフィは本当にあいつが好きなんだな。」


電気消すぞ、ヴェルゴの平静な呟きにドフラミンゴは空返事を返して横になった。

(……俺には過去だって本物だったがな、)

***

その夜は少し寝苦しくてヒスイはベランダの窓を少し開けた。見上げれば綺麗な三日月が浮かび、僅かな光が控えめに眠りについた街を照らしている。
頬を撫でる夜風にうっとり目を閉じる。かたん、隣から聞こえたその音に瞬きすると、ドフラミンゴが静かに縁に腰を下ろしていた。


「…なんだ、お前も眠れないのか。」
「は、はい、…少し暑くて。」
「そうだな。そろそろ梅雨時期か。」


赤い瞳がこちらを見ている感覚。ヒスイは少しそわそわしながら、俯いた。顔を合わせてしまい気まずいが、すぐに引っ込むのもまた気まずい。彼女が黙ってそこに居るとドフラミンゴもまた動かずにいた。


「…今日は押し掛けて悪かったな。」
「別に。兄の友達なんですから、…節度を守っていただけるならまた来て頂いても構いません。」
「そうか。お前…、相変わらずそういう所は甘いな。」


嬉しそうに小さく笑った声に思わず彼女は顔を上げた。目が合って、心臓が跳ねて、少し後悔した。微笑むだなんて顔は見たことがなかった。彼の目はいつもサングラスに隠れていて本心を伺い知るのは難しかった。更には権力、能力の差が圧倒的で他意のない世間話なんてする選択肢はなかった。
だからこの動揺はこんな風に素顔で接するのに慣れていないだけだ。自分にそう言い聞かせながら、ヒスイも困ったように眉を下げて笑った。


「ヒスイ。少しずつでいい。この世界での俺も知ってくれ。」
「…はい。」
「手離せないとは言ったが、愛せとは言わない。」
「…ほとんど言ってるのと同じですよ、それ。」
「フッフッ、そうか、悪いな。」
「いいえ。それが、貴方なんだと思いますから、構わないです。」


立ち上がる。そろそろベッドに戻りますね、そう告げると、ドフラミンゴから小さな返事が返った。


「…お休みなさい、ドフラミンゴ。また明日。」


彼女は知らない。
短かなその一言が、彼の心を捉えて離さない事を。
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2017 06 13

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