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07意識


――ロシー、あの、週末こっちに来れないかな。
会って話したい事があるの。

携帯に届いた内容に、ロシナンテは少し動揺した。普段から他愛ない会話をして連絡はとっているが彼女からは珍しいアクションだった。

(どうしよう…ドフィに言うべきか。)

別に報告するような義務はないのだが、彼女の動向をドフラミンゴがとても気にしているのは分かっているから迷った。だが、兄に関する事なら、結局、それはそれで良くないと思いロシナンテは一人で彼女の暮らす街に赴いた。


「ロシー…!」


駅で待ち合わせていたのだが、ロシナンテが電車から降りて改札口を抜けるとヒスイは既に待っていた。先日のホットパンツ姿から今日はスカートを履いていてロシナンテは無意識にその姿を眺めてしまう。


「どうかした?」
「ああ…、今日はスカートなんだなと思って。」
「え?あ。…うん、そう、だね。」
「可愛い。兄上にもまた見せてあげてよ。」


ふわりと笑うロシナンテに彼女もありがとう、と少し照れながら笑い返した。ドフラミンゴの前で着飾るかは別として、いつも優しい言葉をくれるロシナンテが誉めてくれたことが彼女は素直に嬉しかった。


「それで…話って、」
「うん。ごめんね、お休みの日に。私の通ってる高校にちょっと来て欲しいんだ。貴方には直接、見てもらった方がいいかな、って。」


神妙な面持ちで話すヒスイをロシナンテは眉をひそめて見つめた。休日の通学路を二人並んで歩く。駅から離れるにつれて人通りは少なくなり、舗道を歩くのはやがて彼らだけになった。

運動部が部活動をしているのを遠目に解放されている構内に二人は入る。彼女の今、生きている空間を見ているのが嬉しくてロシナンテは小さな背中を歩調を緩めて追いかけた。

***

図書館の建物の前まで来た時、ヒスイはそっと外から中を覗いた。ロシナンテはその後ろから同じように館内を見てみる。学校が休みという事もあり、電気がついていないフロアもあったが、何人かは中に人はいるようだった。

(誰か探してるのか…?)

「何してんだ、あんたら。端から見たら不審者だぞ。」
「ひっ、」


背後から気だるそうに聞こえた声にヒスイがぴゃっと飛び上がる。自然とそちらを振り返ると、分厚い参考書を何冊か抱えた青年とロシナンテは目があった。
相手もロシナンテを見て、それからにわかに目を見開く。ヒスイはロシナンテの後ろで、彼のシャツを軽く握った。


「コラ…さん?コラさん、なのか?」
「お前、…ロー!?」
「あ、ああ…!…何だよ、ヒスイ。コラさんの事、見つけて…!なんでこの前、言わなかったんだ?」
「…。呑み込めてないの、…まだ。ローに会ったのは二週間前、ロシーに会ってからだってまだ半年も経っていない。でも、…、貴方の事は知らせておかないといけないと思って。」


ロシー、そう呼んでロシナンテの後ろで小さくなっているヒスイに、ローはもやもやとした感情に駆られた。浮かない顔をしている原因をロシナンテは理解しているのか、優しい目で彼女を見ている。ああ、よく目にした光景だ。ドレスローザの城で、この二人だけがいた空間は空気のように柔らかく透明だった。そこに踏みいる事が悪いことのように思えた。あの頃は理解していなかったが今は解る。その感情の名が。


「コラさん、ヒスイと付き合ってるのか?」
「え、」
「二人が好き同士なら邪魔はしない。だけど付き合ってないなら俺にくれ。俺はヒスイの事が好きなんだ。」


びく、と後ろでヒスイが震えたのをロシナンテは察した。顔を盗み見ると、困惑した表情で俯いている。ロシナンテはローの真剣な顔に視線を移した。


「俺達は別にそんなんじゃねぇよ。でもロー、ヒスイは物じゃない。心が欲しいなら自分で振り向かせてみるんだな。」
「ああ、勿論、そのつもりだ。」
「…あの。そんな話をしてもらうつもりでロシーに来てもらったんじゃないんだけど。」


はあ、とため息をついてヒスイは呟く。成長したローは如何せん性急過ぎる。昔は可愛い子供だったから流せたものが、今ではただ心臓に悪い。歳が近過ぎるのも問題だった。
だがロシナンテを見上げると、彼は嬉しそうにローを見ていた。その横顔にほっと、不安が解ける。色恋より何よりローが元気に成長しているのを彼は喜んでいて、ローも気恥ずかしそうにではあるが表情は穏やかだった。
ああ、良かった。悩んだけれど来てもらって良かったとそれを見て彼女も漸く笑えた。


「…ロシー、少し二人で話したら。」
「え、ああ。でも、」
「大丈夫、ここ自分の高校だから。一人でも時間は潰せるよ。」

***

休みの日に学校に来るのは考えてみると初めてだった。運動場の隅のベンチで、野球部の部活を彼女は眺めた。

(あ、スモーカーだ。)

見知った姿を部員の中に見つけて、彼女は少し嬉しくなった。いつも落ち着いた彼が、一生懸命汗を流す姿はなんだか新鮮で目が離せない。ずっと一緒に小学校の頃から育ってきたが、スモーカーは同年代にはない大人っぽさがいつも際立っていた。
惹かれていた…ような、そうでないような。隣にはヒナもいつも居て、三人でいるのが当たり前だったからそういう話も出なかった。
ため息をつく。子供だったローがこの間から好きだ好きだと連呼するものだから、ヒスイは妙に周りの異性を意識してしまうようになった。
遠くでスモーカーがふと、こちらを見て止まった気がした。どきり、と心臓が鳴る。

咄嗟に目を逸らして、ヒスイは赤い顔で俯いた。
――――――――――――
2017 05 06

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