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Snow White(キャスパー)


※フロイド実子。キャスパー、ココの異母妹。


雨音は昔から好きだった。部屋の窓を少し開けると、湿った水の香りが隙間から舞い込む。沈んだ気持ちが少しだけ紛れる。
連日の徹夜続きがたたったか、ついには寝込む程まで熱が上がりきってしまった。医者が一度往診に来てはくれたが、詳しい事は伝えられず仕舞いで一先ず休むよう告げられた。
誰に許可を得ればいいか、誰に案件を振ればいいか、分からない。ベストな選択を出せないままヒカルは意識を手放した。

世界が煮え、揺れる。ずっとこのままは息苦しいが再び目覚めるのも嫌だった。誰にも頼れない。頼れない事は分かっているのに自己管理を怠った自らの甘さに腹がたち、また恐ろしかった。
遠くに見えるヘクマティアルの兄と姉。その目は異常なほど冷たく視線を交えただけで吐きそうだった。もう駄目だ。彼女は夢の中で、その場に崩れ落ちただひたすらに赦しを乞う。
返答はない。その時、ふと冷たい感触が額に触れてヒカルは息を吐き出した。


「…誰に謝ってるんだい?」


涙を拭われて目を開ける。夢の続きだろうか。いつ来たのか、銀色の髪が視界で揺れたのに彼女はからからの唇を開いた。
渇ききった口の中は音を出さない。相手はそれを悟ったのか、静かに後ろを振り向いた。


「チェキータさん、何か飲み物を持ってきてもらえませんか?」
「はいはい。」


彼の守護者は気のない返事で部屋を出ていく。逃げ出したい。冷たいタオルを顔に当ててくれるキャスパーから。ぎゅっと目を閉じて彼を見ないようにしていたが、首もとのボタンを自然に緩められてヒカルは咄嗟にシャツの襟を握りしめた。
無意識に目が見開かれる。
キャスパーは一瞬、驚いたような顔をしたがすぐに普段の読めない笑みに戻っていた。


「フフーフ、どうした?恥ずかしい?それとも誘ってるんですか?」
「ち、が…」
「…怖がる必要はない。力を抜け。」


大丈夫だ。震える体を、キャスパーは軽くあやすよう叩く。ひどく懐かしい感覚。まるで魔法のように抵抗出来なくなり、彼女は彼に身を委ねた。


「まったく…初めてだよ。こんな庶民的な事するの。」
「ココ、さん、は?」
「ココは何かあれば私兵が面倒を見る。僕達が顔を合わせるのはビジネス以外ではあまり無いな。君は僕のテリトリーにいるから時折顔を合わせるが。」


確かに、言われてみれば手元に送られてくるメールは東南アジアを手掛けるキャスパーの方が圧倒的に多い。ぼう、と彼を見上げているとキャスパーは少し寂しげに笑い彼女の額にタオルを乗せた。


「ヒカル。君は誤解しているようだが、僕だって人間だ。僕は昔から武器商人。先手必勝、敵は撃滅させる。しかしこんな生業でもヒカルを助けてやりたいと思う気持ちはあるし、何より実際甘やかしてると思うんだけどね。」
「…キャスパー、様」
「だから"様"は要らないって言ってるだろ。」


戻ってきたチェキータから薬と水を受けとると、ヒカルの上体を起こして飲ませてやる。再び横になった彼女は急速に睡魔に教われ、礼をいう間もなく眠りに落ちた。
寝息をたてる彼女の頬を軽く撫でる。起きる様子はない。と、キャスパーは前触れなく熱っぽい唇を奪った。花の蕾を食べるよう味わってから下唇を舐めて、キャスパーは御機嫌で顎に触れる。白いシーツに零れる黒髪のコントラストが美しい。眠ったまま動かないヒカルを見つめ苦笑するのはチェキータ。そのまま背中を向けるキャスパーを追い彼女は部屋の扉を音なく閉めた。


「キャスパー?薬が強すぎたんじゃなくて?」
「いやぁ、怖がりですからねぇ、彼女。強引に行きたいが一応兄妹だし難しいところですよ、実際。」


愛の言霊は曇り空に掻き消える。
運命に見捨てられ絶望する君が、ただに愛しくて。
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2013 09 24

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