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兄弟達の真実_前(キャスパー)


※フロイド実子。
キャスパー、ココと異母兄弟。
↑設定が崩れるのが嫌な方は閲覧をお控え下さい。


「あの……、ひとつ、お願いがあるんですが。」


キャスパーに初めてヒカルから申し出た内容は母親の墓参りの外出許可だった。
一度きりしかあった事のない父親が墓を立ててくれると聞いて以来、彼女はまだ墓参りに行けていなかった。ずっと、考えていたが命日に合わせて頼んでみようと思っていたのだ。
彼は快諾し、必ず連れて行くことを約束した。
ヒカルが生活以外で何かを頼んできたのはこれまでない事でキャスパーは嬉々として準備を始めた。不思議な感覚だが、悪くない。ココとはビジネスパートナーとしての取引は経験出来るが、損得を差し引いての関係性はほとんどない。
新しい家族が与える経験は酷く俗世的だが、楽しかった。

「え…?日本は花じゃないのかい?しかしフロイドさんが造ったなら洋式で建てたんじゃないのか?」

仕事の合間で他愛ない会話をするキャスパーに、チェキータは少し離れた場所で目を細めた。

切り出した当初、ヒカルは護衛をつけて貰えれば、一人で行くつもりだった。しかし、義兄は自分も挨拶に行くからと本当に当日、日本に来た。
グレーのスーツを着こなし白い花束を抱えるキャスパーは、まるでこれからプロポーズにでも行くみたいで可笑しくて少し笑ってしまった。
この人が自分の義兄なんて、きっといつまで経っても慣れないのだろう。短く礼を告げて、足早に用意された車に乗り込んだ。


「ねえ、エンジェル。ニホンは何といってお墓に祈るの?」
「…特に決まりはありません。信仰している宗教によっても違うと思いますし。日本は無宗教の方も多いので。」


今日は普段より表情が明るい。キャスパーはチェキータに微笑むヒカルを横目に景色を眺めた。
日本にいるのに、彼女は自分の意志で出歩く事は出来なくなった。気付かなかったが、もっと早くに母親に会いたかったに違いない。でも太陽が注ぐ穏やかな光を浴びる彼女は彼には少し眩しすぎて。やはり、このままで良いと思った自らの残酷さにキャスパーは一人苦笑を漏らした。

***

郊外の敷地にある墓地の一角に、彼女の母親の墓はあった。真新しい白い石に英字で名前が刻まれており彼女は黙ってそれを辿る。
母の名前と…もう一人。知らない男性の名前が墓石にははっきり刻まれていて彼女は不思議そうに首をかしげた。ヘクマティアルの姓でもない誰かの名前。キャスパーを見上げると、彼は少し驚いた様子で同じ様に墓石を見つめた。


「……驚いたな。久し振りに見る名前だ。」
「!誰だか、ご存知なんですか?」
「確かめる必要はあるが。しかし、それは後だ。此処に君のお母さんがいるのは間違いないんだから。」


花を供える。ヒカルの肩を抱いて目を閉じるキャスパー。その横顔にそれ以上何も言うことが出来ず、彼女は黙って祈りを捧げた。
墓は誰かが掃除してくれているのか、汚れは殆どない。
お母さん、心のなかで呟く。

お母さん、私は元気です。
でも…今の私を見たら、お母さんはどう思うだろう。

お母さんはどうしてフロイドさんを…、あんな別世界にいるひとを好きになったの。
お墓に名前が書かれたひとは、誰――?

(――確かに、あの人はヒカルを家族に迎えるとは言ったが、自分の子供だとは言わなかったな。)

ヒカルが目を閉じているのを確認してから状況を概ね理解したキャスパーは冷たい笑みをチェキータに向けた。
――――――――――――
2015 03 21

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