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Dinosaur Planet07


建物内に滑り込むと、中は薄暗く、静寂に満ちていた。幸い、生き物の姿はない。通路の端を静かに伝いながら歩いていると、不意に手が触れた部分の壁が開いた。
突然、現れた部屋に驚くが、気配の無さに彼女は中へ入ってみる。室内は更に暗く、ヒカルが辺りに目を凝らすと…そこにはカプセルのような容器に容れられた恐竜達が整然と並べられていた。


「な…によ、これ……」


茫然としながらその一つに近付く。死んでいるのだろうか。しかし彼女が傍に立つと、カプセル内の恐竜は弱々しいながらも声を上げた。
彼女は身震いしてレイを探す。実験か、研究か。いずれにせよまともではない。この部屋にレイの姿がない事を確認すると、彼女は再び入ってきた場所へ戻ろうとした。
が、その前に唐突に扉が開く。悲鳴を飲んで、彼女は咄嗟に近くのカプセルの背後に身を隠した。
入ってきた黒い人影はカプセルを運ぶ為の長い台車を引いており、彼はいくつかカプセルを積み込み始めた。作業が終わった処でゆっくり出て行こうとする台車の最後尾にヒカルは身を滑らせる。通信音声をOFFにする。
カプセルの部屋を出て、台車は通路を一定のスピードで進んでいく。身を縮めたまま周囲を観察していると、ふと扉のない部屋から聞き覚えのある声が聞こえてきた。

"アッケラ缶…一度、先に戻るわ。絶対、変よ。私も解析を手伝うわ。"

紛れもない、それは自分の声だった。音声機らしき前に立つ、変わったヘルメットを被った生物はヒカルの声を繰り返し再生して確認している。
レイだけでなく、自分も調べられている事実に、彼女は愕然とした。本来、この世界には存在しない人間。ヒカルから見て彼等が奇妙に映る存在であるように、相手側も同じよう感じている可能性は高い。だが…一人きりのヒカルには彼等のようにこの世界内で何かをする術はない。
彼女は部屋の前を通り過ぎるまで食い入るようにその光景を見つめていた。

暫く通路を移動していると、小さな鳴き声が聴こえてきた。耳を澄ます…間違いない。それはレイの声だった。周囲を見渡すが目に見えて解る扉はない。彼女はそっと台車を抜けて、辺りの壁に手を添えた。近く、どこかに必ず扉がある筈。その読み通りに、ある場所に触れると小さな空間が現れた。明るい表情で、ヒカルは室内へ静かに入っていく。
ヒカルは周囲に最大限に気を配っていた。しかし、通路を横切る僅かな影を見張りの仮面に捉えられる。
仮面の眼が点滅する。侵入者を報せるサインが、静まり返っていた建物内に音を立てて鳴り響いた。

(―――まずい!)
インカムの音声をONにする。
声を辿り奥まで来ると、簡素な寝台にレイは固定されていて、彼女は拘束具を外そうと試みるがなかなか上手くなかった。


「アッケラ缶!どうしたら…ッ」
「壊してもいいから早くレイを助けるんだ!今、タイムホールを開く準備をしてるから!」


力任せにレイを固定している輪を引っ張るがびくともしない。その間にも背後に迫る、警備の仮面。その口から小型の銃器が飛び出したのを見てヒカルは咄嗟にレイを庇い目を瞑った。
レーザーは二人を外れ、コンソールを破壊する。その拍子に、奇跡的にレイの拘束具が解除された。パネルに表示される見たこともない文字の羅列を横目にヒカルはレイを抱いて走り出す。
通路への扉を通り抜けると既に足音の数は分からないくらい響いていて彼女は方向を気にする余裕もなかった。


「アッケラ缶!タイムホールはまだ!?」


こうなっては外へ逃げ切る事は不可能だ。ヒカルはとにかく人気のない道を選んで駆け回ったがそれも長くは続かなかった。
武器を持った異形の者達に囲まれ、彼女は壁際に追い詰められる。じりじりともう下がれない程追い詰められ、背中が壁についた瞬間、背後の圧迫が消え不意に肩を掴まれた。また、隠し扉が開いたのだ。


「…!!」
「準備が出来たよ!ヒカル!アッケラー…」


体の周りが光り始める。振り解く間もなく、ヒカルは異形の生物の一人とタイムホールの輝きに呑まれた。掴まれた肩の感触が消えない。恐怖で目を開ける事も出来ず、彼女は何とか逃れようと時空移動の中で暴れたが離れる事は叶わなかった。
――――――――――
2014 06 10

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