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Dinosaur Planet08


白亜紀のカナダの林に飛ばされてきたヒカルは、足が地面に着地すると恐る恐る振り返った。金色の大きな眼と視線が絡む。他の者達とは異なる紫色のヘルメットに自然と目がいく。共にタイムワープしてきた相手は先程の建物内で彼女の音声を繰り返し調べていた者だった。仲間達のように攻撃してくるような気配はないが、逃がしてくれる気もないらしく。肩を掴んだ手はそのままだった。


「ヒカル、早くそいつから離れるんだ!!」


インカムから漏れたアッケラ缶の大声に、相手の方が驚いて飛び退く。距離が離れた事で腕の中のレイを抱き締めて彼女は逃げようとすぐに踵を返すが、跳躍力の高さで行く道は容易く塞がれた。ぐずぐずしてはいられない。早くしないと、彼には仲間が大勢いる。すぐに増援が来るはずだ。


「アッケラ缶…タイムホールってまたすぐに使えないの?」
「エネルギー貯蓄と安定の為に後、三時間は待ってくれないと使えないんだ。…何とかあいつの気を逸らせない?」


小さくため息をついて辺りを見回す。手持ちのサバイバルナイフと足元に折れた木の枝くらいはあるが、武器としてはどれも役立ちそうにない。
彼女が途方にくれていると、やがて辺りに白い靄が立ち込めてきた。…濃霧だ。ヒカルが黙って相手を見やると、狭まる視界に狼狽えていた。匂いでは追い掛けて来れないのかもしれない。彼女は全速力で走り出した。聞き取れない声のような音が聞こえたが振り向く事はしなかった。

霧の中、林を駆けているとヒカルは草食恐竜の群れに出くわした。追手から逃れた事で安堵し、恐竜好きの心が弾む。ちょうど息も切れてきたので彼女はその近くで少し休むことにした。


「レイ、大丈夫?」


そっと地面に降ろしてやると、レイは元気そうに声をあげ近くに群生する草を食べ始めた。お腹が空いていたらしい…その様子に気が揺るんで彼女もその場に腰を降ろした。


「…ねえ、アッケラ缶。あの人達は何なのかしら?まるで爬虫類が人間になったみたいな風貌だったわ。」
「分からない……でも、あの姿。恐竜が進化した場合の仮説として挙げられている恐竜人類の創造モデルに極めて酷似した箇所がいくつもあるよ。」
「恐竜人類……」
「でも、それは有り得ない。だってバーチャル大陸は6500万年前マグマの大噴火と隕石の衝突で恐竜が絶滅する設定で創られているんだから。」


アッケラ缶は恐竜人類の未來を否定するが、彼等が死滅しない仮定の未来を彼女は想像する。有り得ないその未来がもし存在するなら…辻褄が合う。レイに現実にいる恐竜の骨格データが当てはまらない理由も。レイが6500万年前以降に生まれた恐竜なら話は別になるからだ。



「アッケラ缶…私が現実に戻れない件と合わせて、このバーチャル大陸の歴史をもう一度よく調べてみて。そもそもの仮定が間違いじゃない?恐竜人類が存在する未来がこの先にある…そう考えるとこの一連の不可解な説明が全部つくと思わない?」
「えぇ!?いや、そんな…まさか」
「あり得ない、なんて事ないよね。今だって既に彼等の存在自体がまずあり得ないんだから。」


がさっ、葉が揺れる音に聞き慣れない悲鳴が混じる。ヒカルが驚いて振り向くと、まさに話の中心にいた人物が霧の晴れてきたパラサウロロフスの傍で小さな小動物を振り払っていた。レイを抱き上げて、彼女はまた走り出す。どうしたら、この世界で彼らを振りきれるのか。
その時、タイムホールの警戒音が最悪のタイミングで聞こえてきた。唇を噛んで、空を見上げる。空がうねり、現れる艇。気がつくと勢いのまま林を抜けてしまい、拓けた水辺に彼女は出てきてしまっていた。
まだ三時間経っていない為、タイムホールは使えない。


「、どうしたらいいの…」


目一杯走るが、後方からの追っ手も近付いており八方塞がりだった。行く手には地上に降りてくる船を見て、彼女は立ち止まざるを得なくなる。向かう先が制限される中、水辺に方向を変えると向こう岸からこちらに向かってくる恐竜の大群が見えた。


「、アッケラ缶…あれは」
「パキリノサウルスの大群だ!!…そうだ、ヒカル、あれを使おう!!恐竜に向かって走るんだ!!」


その提案に戸惑うが、もう引き返す事は出来ない。ヒカルは意を決するとアッケラ缶の指示の下、水辺に向かって駆け出した。
暫く前に転んで擦りむいた膝が少し痛んでくる。しかし彼女は痛みを殺して、レイを抱き締め走り続けた。
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2014 06 16

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