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宝石箱の鍵は刺さったまま10


出し抜かれたのは久し振りの事だ。ウボォーギンを殺したであろう鎖使いを捕らえようとして、逆に捕まったクロロはぼんやりとそう思った。中性的な顔立ち。しかし、憎しみに染まった顔はその美しさを削いでいた。
赤い眼に最も相応しいのは、無垢な表情。ヒカルだけが緋の眼に愛された奇跡なのだとクロロは改めて確信した。


「……そう言えば私の仲間がおかしな事を言っていた。お前達のアジトで赤い瞳の女性を見たと。」
「そうか。」
「…否定しないのだな。ならば、教えてもらおう。女性と貴様の係は?その女性はクルタ族なのか?」


クロロはその問いに意味深な微笑を浮かべただけで答えなかった。感情的になったクラピカは素手でクロロを殴り付ける。彼は何も言わなかった。クロロの意識は離れたヒカルに移っていた。彼女は今どうしているだろうか。そう日は経っていないが暫く顔を見ていない気がする。…会いたい。最近、笑った顔を見ていないから何か彼女の望む事をさせてやりたかった。
本当に綺麗なのだ。あの、静寂に包まれた空間で微笑む儚い姿が。

***

「……やあ。またすぐ会ったね、ヒカル。」
「え…」


部屋に入ってきたヒソカの姿から別人の声がして、ヒカルは俄に混乱した。彼は彼女が座るカウンターの前に腰を降ろすと一冊の本を取り出す。貸し出していた相手を思い出して、彼女が驚きに目を瞬かせると彼は頬杖をついてヒカルを見つめた。


「目の色…変わったんだ?それに俺の顔見えてるんだね。」
「…イルミ、さん」
「ああ、これ。ちょっとヒソカに内密に代理を頼まれてさ。ちょうどいいから借りてた本も持ってきたんだよ。」


自分の顔を触りながら、イルミは淡々と話した。
ヒカルはそうですか、と蔵書を受け取ると開きかけた口を噤む。少し前から外で続いているこれまでになかった不穏な空気。しかしそれを彼に聞いても良いものか、彼女は静かに目を伏せた。


「…慎ましやか。悪く言えば、怠惰かな。」
「?」
「まあ君の場合はそれでいいのかもね。クロロがそう望んでるんだから。…でも、」
「…」
「世界は動き出してる。此処もね。」


イルミはそれだけ告げると立ち上がった。ヒカルはその後ろ姿を名残惜しげに見つめる。イルミが言いたかったであろう核心に、もどかしい思いが募った。
しかし確かなのはクロロとの約束が、全て。それが彼女には一番、大切な事だった。


「イルミさん、私、此処を守りたいと思ってます。此処には…クロロが大切にしているものが溢れているから。 」
「そう。」


ここで待ちたい。彼の帰りを。
初めて強くそう思った。イルミは気のせい程度に目を細めると彼女の部屋を出て行った。
ヒカルは一人祈る。彼女は知らない。外の世界で起こっていることを彼女は何も知らないまま、主人を信じて待ち続ける事を選んだ。

イルミは淡々と思う。

(うーん…。もし、ヒソカが勝ったら…ここの本と彼女貰っちゃおうかな。実家にスペースも充分あるし。)

頑張らなくてもいいよ、クロロ。
君の宝物、継ぎの予約は俺がしといてあげる。
――――――――――――――
2014 05 26

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