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ルージュの花束を添えて(ヒソカ、カストロ)


※天空闘技場受付嬢。
ヒソカ→主→カストロ微要素。


天空闘技場は強い人間だけが勝ち残り生きる至ってシンプルで異質な空間。上階の勝者には莫大な富と栄誉が与えられるとあり、危険な場所にも関わらず訪れる者は後を絶たなかった。
200階クラスの受け付けであるヒカルはその戦いの光の影で死んでしまう者、再起不能に陥ってしまう者も多く見てきた。念を使える者の戦いはどこまでも奥深く…時に残酷だ。
リストデータを黙々と処理する。先日、元気にここを訪れた新人の名前に目が留まる。笑顔の可愛い青年だったが、彼は今意識不明で病院のベッドの上だ。来訪者に情を抱いては自分が損をする。と、不意に白い一輪の薔薇がパソコンと彼女の間に静かに差し出された。


「やあ、」
「カストロ様…いらっしゃいませ。」


短く礼を言って、差し出された花を受け取ると相手は満足そうに笑みを浮かべた。穏やかで甘いマスクの男性だが、カストロは負けん気が強く自信家だった。その自信も過信ではなく、鍛練の賜物として得た力の結果であり、事実、彼は今フロアマスターに最も近い人間とされていた。
悠然と佇むその姿にかつてヒソカに瀕死の状態にされた影はもう無い。ヒカルは丁寧に頭を下げて次の試合の登録日を彼に尋ねた。


「期日は別の人間からこちらに連絡が来る。決まれば私に連絡をくれ。」
「…それは」
「10戦目はヒソカと闘う。私はその為にここに留まり、腕を磨いてきたからな。」


優しく髪を撫でてから、カストロは再び来た道を戻っていく。あの人に関わらないでほしい、思わずそんな事を口に出しそうになったが恋人でも友人でもない彼女が望める筈もなかった。
顔を合わせる事の多い、仕事上の知り合い。ただそれだけの存在で、彼のする事に口出しする権利などヒカルにはなかった。掌にある白い薔薇を水差しに差して、彼女は小さくため息をついた。

***

「……いらっしゃいませ。」


一月後、久しぶりに間近で見た人物は変わらず読めない空気を纏っていた。金色の切れ長の目はいつ見ても奇妙な雰囲気を纏っている。
ヒカルが頭を下げて、控え室に案内する為席を立とうとすると突然頬を片手で掴まれた。


「…。ねェ、君、綺麗な顔してるね。」
「あの……離して、いただけますか。」
「でも白い花なんて似合わないなぁ。ちょうどいい。後で、真っ赤な花を君にプレゼントしよう。」


何事もなかったかのように手を離し、ヒソカは楽しそうに笑った。まさか話し掛けられると思ってもみなかったヒカルは内心とても驚き、動揺した。
ひらり。花の花弁が、音なく散る。彼女がそれに息を呑むと、奇術師はまたくすくすと肩を竦めて笑みを漏らした。


「…贈り物かい?◆」
「いえ…」
「そう。なら良かったね。次はボクからの花に変えるといい。」


嫌な予感を殺してヒカルは素直に彼の言葉に頷いた。カストロが、また淡い色の花をくれる事を心の奥底で望みながら。


「ねェ、試合の後、食事でもどうだい?」
「…すみません。お客様との個人的なお付き合いは控えさせていただいてますので。」
「つれないなぁ。でもすぐに肯定する女よりずっといいよ。」


また後でね、ヒカル。

控え室の扉が閉まるのをぼんやり見つめながら、彼女はただ立ち尽くしていた。
ヒソカに名前は教えていない。面と向かって会った事も殆どない…はずなのに。落ちた花弁に背中が冷える。闘技場のモニターに流れるカストロのインタビューに体がすくみ、ヒカルは祈るように画面に映る笑顔の彼を青い顔で見つめた。

(嗚呼…澄ました君の泣き顔は、彼と闘うよりずっと興奮するんだろうなぁ…)

弱い男はやめときなよ、
どうせすぐ失くしてしまうんだから。
――――――――――――
2014 04 17

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