×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -



宝石箱の鍵は刺さったまま9


"口煩く命令するつもりはないが、食事はきちんと食べておけ。"


眼が覚めると、クロロの字で書かれた簡易なメモが枕元に残されていた。
元よりこの街には大きな仕事で来ていると言っていたし、彼も忙しいのだろう、戻ってきてから部屋には現れなかった。静かな室内。以前の平穏が戻ったような気がしていた。数日後、彼女がいる部屋に怒鳴り声が聞こえて来るまでは。

(…なんで分けてやらなかったんだ!!)

言葉は彼女に対する直接的なものではない。声は知らない少年のもので誰かに叫んでいるようだった。こんな事は初めてだった。彼らがアジトで他人と口論する事など今までなかった事だ。ヒカルは少し迷ったが、部屋の扉をそっと開けた。
柱の影から、拓けた場所に集まる旅団のメンバーを彼女は覗く。…クロロは居ないようで、対して知らない顔の人間は少年二人だった。緊迫した殺気に息を呑む。
あれが一緒に食事をしたり、他愛ない話をした事のある人達…?肌を刺すような空気は皆まるで別人だった。動けずに立ち尽くしていると、いつの間にかコルトピがすぐ隣に移動してきていた。

(今は部屋に戻っていた方がいいよ)

手招きする彼にヒカルは従い、蔵書の部屋に大人しく戻った。


「コルトピ…あれは誰なの?」
「ただの侵入者だよ。大丈夫…部屋から出なければ何も心配ないから。」


その夜、地震のような揺れに彼女はベッドから飛び起きた。
ヒカルは咄嗟に書物を確認して、周囲をくまなく警戒する。部屋に誰かが踏み込んだ形跡はない。ともすれば、昼間のあの少年達…彼女は気になって外の様子を伺ってから廃屋の廊下へ出た。
見下ろす広間には誰もいなかった。暗闇の中で微かに動く影が二つ。白っぽい髪の青年の残像はその色合いのせいもあり、辛うじて目で追えた。

どうやら殺されなかったようだ。
彼女がほっと息をついたその時、俄に少年が振り返った。刹那、目が合う。いや、正確にはそう感じただけだ。少年はとても驚いた顔をしたように見えたが、直ぐに背中を向けて闇に消えてしまい分からなかった。

数分後、ノブナガが扉の外から大丈夫かとノックをしてきたから室内は問題ないと彼女は返した。


「…ちょっと出て来ねぇか?ヒカル。」
「はい…」


彼からの申し出にドアを開けると、ノブナガはどこかバツが悪そうな顔をして立っていた。下に降りて二人でパンをかじる。美味しい、やはり誰かと一緒に食べるのは美味しくてヒカルが素直に笑うとノブナガは少し悲しげな表情で彼女の頭に手を置いた。何だか彼らしくない。
どうしたの、そう聞きたかったがその疑問は喉を通らなかった。
こんな時、ウボォーが居たら。口下手な自分よりノブナガを元気にしてくれると思うのに。ゆらゆらと揺れる蝋燭の火を見つめながら、他の仲間達が早く帰ってくるのを願った。
――――――――――――
2014 05 18

[ 15/114 ]

[*prev] [next#]