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宝石箱の鍵は刺さったまま8


「やあ、帰ってきたんだ?」
「…」


本に囲まれた定位置に戻ったヒカルの元を最初に訪れたのは、ヒソカだった。彼女は目の前に来た彼に被ったままのフードを少し上げて視線をやったが、すぐに目を反らした。
楽しかったかい、ヒソカはそう言って彼女のおかしな態度を気にするでもなく笑った。見たところ手荒く扱われた様子はない。しかし、勝手に外に出た事で何らかの重圧を掛けられた筈だ。
不安げなヒカルの様子を見て、ヒソカは口元を手で覆った。


「…そんなに落ち込むなよ◆こんな処にずっと居たんじゃたまには外の空気も吸いたくなる。」
「…慰めてもらう必要はないわ。私が悪いの。…ねえ、ヒソカ。用が無い時、もうここには来ないで?お願い…。」


少し震えた声で、彼女は静かに呟いた。自分の事は知りたい。彼が教えてくれたクラピカという名前の人物の事も。けれどこれ以上、今まで守ってくれたクロロを裏切る事は出来ない。ここへ戻るに当たってヒカルは彼に従う事を約束したから。


「お願い、ね。…保証は出来ないかなァ。だってボク、君と話すの結構好きだからさ。」
「ヒソカ…」
「目が紅くなくたって別に構わないよ。ボクは、ね。」


するりと前髪を撫でて、ヒソカは部屋を出て行った。扉が閉まった瞬間、涙が溢れた。クロロは団員にどこまで話したのだろう。それともヒソカがこの眼について詳しいだけ?いずれにせよ、彼女の心を乱したのはそこではない。

(紅くなくても構わない。)

もし、その一言をクロロから聞けたなら。どれだけ安心して此処に居られるだろうか。何故、欲しかった言葉をくれたのがヒソカなのか。彼女は静かに暫く泣き続けた。


「団長。監視はつけなくていいのかい?」
「ああ。言っただろう?マチ。ヒカルは俺のお宝だ。お前らにわざわざ管理をさせる手間はない。」


クロロは薄く笑うと、地下オークションの話に話題を戻した。借宿に戻って以来、彼女は部屋に籠り食事にも出て来なかった。
マチは少しだけ複雑な顔で開かない扉を見つめた。特別親しくもないが、知らない仲ではない。ノブナガとウボォーギンに視線を移すと彼らは明らかにそわそわとしていてヒカルを気にしているようだった。
蜘蛛の中でも、二人は彼女を可愛がっていた部類だ。と、部屋の扉が静かに開きいつの間に入っていたのか奇術師が姿を現した。マチと目が合うとヒソカは意味深な笑みを浮かべてウインクを一つ。彼女はそれに気付かない振りをして目を反らした。

***

「ヒカル、食事を……」


地下オークションへの襲撃組が出掛けた後、クロロは彼女の部屋を訪れた。部屋は静まりかえっており、カウンターでは華奢な身体が臥せっていた。
涙の痕が残る頬。クロロはそれをなぞった後、ヒカルの身体を横抱きに抱えた。
書物を揃えてある空間の隣に彼女の小さな自室はある。ベッドまで運び身体を横たえるとクロロは眠り込むヒカルの唇をごく自然に奪った。

(捨てられると思ったみたいです)

パクノダが内密に彼に語った言葉。確かに、緋の眼がなければヒカルはほぼ普通の女だ。特質系の念もいまだ未成熟でその片鱗を見せるだけだった。
しかし、彼女はこの小さな世界の管理者だ。幻影旅団としての仕事が終わり、ヒカルが自らの書物を整理するこの空間を訪れる事がクロロは好きだった。それは魚が水の中で息をするのと同じく当たり前の事で。


「…お前自身も、俺は愛でてきたつもりなんだがな。」


クロロは額を撫でて暫くその憔悴した寝顔を見つめていた。
―――――――――――
2014 05 17

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