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無二のきみと共に(シュバルツ弟)


寒い季節から暖かい日差しが徐々に増えてきた頃。
帝国軍の遠征訓練前にヒカルは久しぶりにとある基地に顔を出していた。挨拶もそこそこ、彼女はディバイソンの整備に取り掛かる。半年ぶりに顔を合わせた友人と共に。


「そう言えば和平協定の記念日に共和国から花見の会の案内がきていたが、出欠の返事は出したのか?」
「トーマ、私もう軍属じゃないからそんなの来ないよ。…フィーネさんから連絡は来たけどね。」
「な。フィーネさんといつから、」
「まあ共和国にだって仕事で行くから。連絡先くらい交換するよ。」
「…」
「なあに?私が、バン君やフィーネさんと連絡してたら変?」
「そんな事は言っていない。…ただ、お前は昔に比べて社交的になったと思っただけだ。」
「…そうかな?そうでもないけど。今回は私、行かないよ。」
「は?」
「知ってるでしょ。私、公務は苦手なの。また会えるし、その日はもうやること決まってるから。トーマはもちろん行くでしょ?皆によろしくね。」


機械を弄る手を止めて、彼女は迷いなく笑った。
彼女の記念日の行き先は実際既に決まっていて、帝国の辺境に残る養父の家に帰省していた。何をするではないが、掃除をして、庭から見える湖と季節の草木を感じ、ゆっくりと自然に溶けるよう静かに過ごすのがヒカルなりの平和に対する気持ちだった。

トーマは少し目を伏せる。
そして彼女の意図を汲んでから、口を開いた。


「では今年はお前に付き合おう。」
「え、いやいや。トーマは、」
「式典はどうせ兄さんや上層部が出席するし強制じゃない。退役したせいでたまにしか会えないんだ。今回は俺も帝国で羽を伸ばすさ。」


困り顔になったヒカルに、トーマは苦笑する。彼女は退役してから少し変わった。女性らしさが増して、距離が空いた分遠慮がちになった気がした。
レイブンやリーゼの世話をよく焼いていると話には聞くが、彼らと相性の良くないトーマが顔を合わせてその場を目にする事もない。だんだんと、気付かない僅かな速度で薄れていくような彼女との繋り。俺が一緒では迷惑か、トーマが問えば、ヒカルは首を横に振った。


「迷惑なんてとんでもない。でも、軍人の貴重な休日を私の付き添いで終わらせちゃっていいのかなって。」
「なんだその妙な気遣いは。」
「妙って…私だって、気ぐらい遣うよ。」
「いいんだ、俺がそうしたいんだから。」


だから、そんな風に離れていくな。その言葉は呑み込んだ。

***

当日、ゾイドを駆り出したのはヒカルだった。
二人で他愛ない話をしながら向かっていると、トーマはいつの間にかうたた寝しながら眠っていた。
気の抜けた彼の寝顔に彼女は静かに笑う。軍を辞めてから二人で出掛ける事は確実に減った。でも、いつも隣にいてくれた友人に変わりはない。まじまじとトーマを見つめると、あの頃よりも随分大人びてほんの少し気恥ずかしかった。

ふと、レイブンの言葉を思い出す。

(俺はもう子供じゃない)

そうなんだろう。だって、トーマがこんなに成熟しているのだから。自分は?どうなんだろう。成長出来ているだろうか。なんだか急に不安になって、彼女は小声で彼の名を呼んだ。


「…トーマ、」


応えはない。コクピットは相変わらず気持ち良さそうな浅い寝息が繰り返されているばかり。ヒカルはそれを確認すると、そっと彼の手に自分の手を重ねた。

―――ごつごつ。それに傷、増えたなあ…

知らない内にトーマが自分より更に大人びて先に行ってしまったような気がした。ふと、顔をあげると、緑色の瞳と目が合う。咄嗟に手を離そうとすると、素早く掴み返された。


「…お、起きてたなら、返事してよっ。」
「今、起きた。お前こそ起きている時に触れればいいだろう。」
「やだよ、照れくさい。もう、まあまあ大人だから。」
「まあ、…確かに多少気まずいな。」


お互い顔を見合わせて眉を下げる。
苦笑して、けれど手は離さなかった。

春の花の香りが優しく吹き抜けて、遠くに見えてきた懐かしい生家にゾイドが嬉しそうに吠えた。
走り出したグレートサーベルにヒカルは朗らかに笑う。

ああ、そうだ。この顔が見たかった。
この笑顔に、俺はあの頃救われたんだ。
トーマは彼女の横顔を眺めながら、幸せに微睡んだ。


「来年もまた誘え。一人で来るには此所は少し遠い。」
「…ありがと、トーマ。そうするよ。」


変わっていく君と、今、変わらない約束を。
―――――――――――――
2018 03 31

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