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愛情の境界線(レイブン、リーゼ)


「たまには僕も女らしい事をしてみようかと思ってさ!ってわけで、はい!」
「リーゼはいつでも女の子でしょ。ありがとう。」
「ふふ、そんな事言ってるのヒカルさんだけだから。」


仕事終わりに携帯を開くと、リーゼから今日会えないかと連絡が来ていて、ヒカルは自宅のマンションに誘った。
やって来たリーゼから可愛らしい包み紙を受け取ってヒカルは少し照れながら笑う。
そういえば今日は贈り物をする行事の日だったな、と思い出す。軍に所属していると、日常のイベント事にはめっきり疎くなってすっかり忘れていた。もうそんなに若くもないしな、彼女は内心ため息をつく。
最もリーゼ位の年頃でも、当時は戦時中だった為そんな余裕もなかったのだが。


「学校はどう?楽しい?」
「まあね。悪くないよ。」
「そう。なら良かったわ。」


リーゼは暫く前から定時制の学校に通い始めていた。普通の生活を感じてもらいたくて、ヒカルが提案した案件だったが運良く国にも通して貰えた。
リーゼには部屋の合鍵を渡してある。未だ使われた事はないが、それは彼女を見守っていきたいと願う、小さな我儘とヒカル自身は考えていた。
彼女の傷が、平和な生活を通して癒える事を願いながら側にいたい。かつて養父がしてくれたように。

食事の支度を始めると、インターホンが鳴る。何か宅配物でも頼んでいたっけ、彼女が出入り口に向かうと、外に居たのはにわかに不機嫌そうなレイブンだった。


「…いらっしゃい、レイブン。どうしたの?」
「誰かいるのか?」
「今、リーゼが来てるけど。貴方も夕飯食べていく?」
「…」


返事はなかったが、レイブンは黙って中へ入った。外にいるシャドーに声を掛けてからヒカルも続いて引き返す。
リーゼは何でまたと声をあげたが、彼は聞き流してソファに座った。


「…なんだか、あれだね。この顔合わせ、最近増えてきたわね。」
「違うよ、ヒカルさん。僕、別に誘ってないし。ヒカルさんがレイブンに家に上がり込まれてるだけだから。」
「はあ?お前も同じだろうが。」
「はいはい、喧嘩しないの。もうすぐ、出来るから。私は二人が来てくれて嬉しいよ。」


食事を誰かと食べるのは、一人より楽しい。
ヒカルが嬉しそうに料理をする姿をレイブンは黙って眺める。家にいた事に彼が安堵したなど彼女はきっと夢にも思わない。今夜がシュバルツとデートしてるなんて最悪にむかつく展開でなかった事は幸いだが、結局は彼女の周りには誰かがいる。彼女の愛情を受けるのは自分だけでいいのにと思う反面、リーゼがヒカルの側で幸せそうにしている事に悪い気はしなかった。

(ヒカルさんはさ、僕に部屋の鍵をくれたけど僕はこれを使う気はないんだ。)

芯はしっかりした女だ。以前、リーゼは嬉しそうにレイブンに鍵を見せながらも、そう言っていた。

(僕はいつかヒカルさんを支えてあげられる位、自立した人間になる。レイブンはあの人がただ好きなだけ?あの人の愛情を独り占めしたいだけかい?)

違う。勿論、彼女が困っているなら支えたい気持ちはある。だが、リーゼは女で、自分は男。ヒカルに求める愛情の種類が異なる。周りに男が多いのも彼の悩みの種だった。


「はい、お待たせ。あ、スープ、まだ熱いから気をつけてね。」


トレイを置いた手を握る。
立ち上りかけた彼女をそのまま隣に座らせると、レイブンは真顔で口を開いた。


「ヒカル、俺にも鍵がいるだろう。」
「は、はぁ?また急に何を、」
「勝手に部屋には上がらない。約束する。ただ、あんたとの見える繋がりが俺も欲しい。あんたは俺も大事なんだろ?なら俺の事もリーゼと同じよう扱うべきじゃないのか。」
「…」


ヒカルは困って俯いた。あまりにレイブンは真っ直ぐに感情をぶつけてくるから、時々身動きが取れない気分になる。少しだけ考えて、掴まれている手を優しく握り返し、彼女は顔をあげた。


「…貴方の事だって勿論、大事よ。でも、それは駄目。レイブンはもう男の人だし…」
「ふぅん、一応、俺を男としては見てるのか。」
「、」


てっきり食い下がると思っていた。のにあっさりと手を離し、何事もなかったように食事を始めたレイブンに彼女は一瞬呆気に取られた。こころなし嬉しそうに綻んだ唇にはっとする。試された。ヒカルが赤くなって俯くと、リーゼがレイブンの足を蹴った。


「お前、もうちょっとやり方ないわけ?ガキ。」
「無いな。昔からヒカルは自分に関してはこと、鈍感だ。」


イベントごとにもさほど興味がないからどうせ何も用意がないのは分かっていた。だから、これは少しの嫌がらせと好意の証。約束はいらない。贈り物もいらない。
愛している。その気持ちは彼女がどうあっても変わらないから。いつかそれを受け入れてくれさえすれば。


「俺はもう子供じゃない。」
「ニートが晩御飯たかりに来てよく言うー。あ、ヒカルさん、僕は卒業までは子供扱いでいいよ。」
「…全く。二人とも十分、もう大人だよ。」


苦笑ながらも笑うヒカルにレイブンとリーゼも笑顔になる。子供扱いしていたつもりはなかった。
ただ、一番近い表現を使うなら二人は家族のような存在だった。

(いつか…彼が格好いいと思える日が来るのかな、)

今はまだ可愛いままで居て欲しい。
近くで柔らかくなっていくレイブンの表情を見ていたいから。
幸せな食卓にヒカルは目を細めると、他の料理を取りに立ち上がった。

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2018 03 18

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