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聖なる夜とティーンエイジャー(レイブン、リーゼ)


※GF後。ほのぼの閑話。
レイブン×リーゼ要素はありません。←押しの方は悪しからず。。


街中が色とりどりに輝き始める冬の季節、ヒカルは一人帰路につきながら白い息を吐いた。
口には出さないが昔からこの日は嫌いだ。家族と過ごすこの日はトーマに要らない気を遣わせるしアパートの部屋に帰って付ける電気がいつもより寂しく感じる。幼い頃の優しい思い出が、今は少し悲しい。
もう大人だから、そんな事口には出さないけれど。


「遅いぞ。こんな日にこんな時間まで働く必要があるのか。どれだけ待たされたと思ってる。」
「正確にはボクたち、だけどね!おかえりー、ヒカルさん。」
「…」


どうやって入ったのか…、いや、聞くだけ野暮か。二人ともがオーガノイドを持つ人間だ。暗闇だと思って帰った部屋にはレイブンが寛ぎ、リーゼがキッチンで鍋の具材を切っていた。
一瞬、面食らった彼女だが、 すぐに小さく息をつきコートを玄関近くのクロークに掛ける。


「…連絡してくれたらケーキくらい買ってきたのに。」
「甘いものは嫌いだから要らない。」
「へへっ、サプライズで驚かせたかったんだよ!いいから座って、座って!」


リーゼに促されるまま、席につく。お世辞にも広い部屋ではない為、突然大人が三人になると何だか手狭な気分になった。だが対して温かかった。家に誰かが来るのは久しぶりのことでぼんやりとヒカルは鍋から立ち上る湯気を見つめる。
真向かいに座るレイブンと目が合うと、彼女は穏やかに微笑んだ。

戦争が終わってからリーゼの働き口が決まるまでヒカルは進んで彼女の生活面での面倒をみていた。それは昔、養父が自分にしてくれた事を、彼女にも与えたいヒカルの意思であり、初めは憮然としていたリーゼも次第に心を開くようになった。
妹が出来たみたいで彼女自身も嬉しかった。一緒に暮らせば良かったのかもしれないが、かつて帝国軍によってリーゼが受けたトラウマを考えると言い出せなかった。かつては自分も帝国の兵士だったから。


「なんだか私たち三人で食事ってありそうでなかった組み合わせだね。」
「…リーゼ、食事を作ったらお前は帰」
「はーいはい!レイブンがヒカルさん病なのは前から知ってるけど今日はスペキュラーが扉を開けてボクが君を誘ってあげたんだから大人しく黙ってなよ。」


笑顔で言い放つリーゼに、レイブンはそれ以上二の句が次げず、ヒカルは思わず吹き出した。この二人の関係性も一見、刺々しいようなのに実は良好で見ていて非常に微笑ましい。同い年で、似た境遇であることも理由のひとつかも知れないが、もともと性格の相性もいい方なのだろう。心配してきたレイブンにもようやく気のおける友人が出来つつある。このまま仲良く過ごしていける事をこっそり願いながら、ヒカルはリーゼの運んできた具材を鍋の中に入れていった。


「そうだ。ケーキはないけど、頂き物のシャンパンがあるわ。アルコールフリーだったと思うから後で開けましょうか。」
「やったー!」
「…誰にもらったんだ?」
「どうだっていいよ、そんなの。さて、じゃあ揃ったところで始めよ!ヒカルさんもお腹空いてるよね?」


メリークリスマス…!さあ、食べよう!

リーゼの明るい声も、レイブンのもくもくと食べる姿も、彼女は全部嬉しかった。また誰かとこんな風に、クリスマスを過ごすなんて考えてもいなかった。目の前の光景に自然と笑顔が溢れる。


「ありがとう、二人とも。美味しいね…。」


少しだけ目頭が熱くなったのはうまく隠した。

ささやかなパーティが終わって夜も更けた頃。レイブンは静かに身を起こした。毛布を横に避けて近付いた先はソファで寝息をたてるヒカルの傍。疲れているのか頬に触れても全く起きる気配はなく、彼は腰を降ろし無遠慮にその寝顔を近くで眺めていた。


「…起こすなよ?明日も仕事だって言ってただろ。」
「別に何もしていない。お前こそ黙って寝てろ。」
「ボクは寝台を譲ってもらっているから代わりに家主がちゃんと眠れているか見守る義務があるのさ。」


ふふーん、と嬉しげにヒカルの布団にくるまるリーゼにレイブンは舌打ちする。
その時、傍にあった彼女の携帯が小さく震えた。ためらいなくレイブンは取り上げてメールを開く。受信されていた人物の名前をみて彼は眉間のシワを深くした。

――メリークリスマス、ヒカル。
いつも感謝している。遠慮せずとも毎年うちに来て構わないんだからな。


「あーあ、勝手に開けちゃって。で、誰?」
「うるさい。」
「ふーん、大方あのディバイソンのお坊ちゃんあたりか。ゾイドの操縦は下手いけどマメだねー。」
「馬鹿なやつだ。ヒカルが今、誰といるかも知らないで。」


レイブンはそれだけ言うと、再びマットの上に戻り仰向けになった。リーゼはそれをベッドの上から眺めて小さく笑う。ヒカルの匂いがする布団に包まれて過ごす穏やかな三人の夜は眠るのが何だか酷く勿体なくて彼女はずっと起きていたい気分だった。


「…ねえ、レイブン。ボクはさ。このままずっとこの先も三人でこうしていたいけどヒカルさんには幸せになってもらいたいんだ。」
「…」
「例え君やボクがヒカルさんに選ばれなくても、ボクは彼女の幸せを祈りたいと思う。」
「勝手にしろ。ヒカルが俺達を捨てたり離れるなんてあり得ないけどな。」

「ふふ、…」


微睡みの中で、リーゼはゆっくりと目を閉じる。
いつかは離れてしまうかもしれないけれど、今はうんと甘えたい。まだまだ一緒にいたい。
黙って手を伸ばしてくれた優しい彼女が大好きで、少しの胸の痛みを隠すようリーゼは枕に顔を埋めた。

ボクたちには貴女より大切なひとは居ない。
でもそう言ったら貴女がきっと何処にも行けなくなるから言わないよ。

大好き、だから。

(―――ああ!でもそんなヤツが現れたらやっぱりボクやっちゃうかも)
(安心しろ。お前がやる前に俺がやる。)

うーん…、なにか話してるなあ、、眠くてよく聞こえないけど……――――

おやすみ、二人とも。大好きよ。
―――――――――――――
一日遅れですが、メリクリネタ。
お久し振りのゾイドでした。
201612 26

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