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大尉の受難(オコーネル)


※GF後。あったかもしれない共和国sideとのヒトコマ。


戦争が完全に終結し、帝国と共和国の国交が徐々に活発になりつつある昨今。帝国軍を退役したヒカルはフリーランスの整備士として国内外を問わず仕事をしていた。
あまり口数は多くないが穏やかな性格の彼女がバンやフィーネ達と親しくならない訳もなく、トーマを介さずして連絡を取り合うのに時間はさほど掛からなかった。

(……面白くない、といえば子供じみているな)

トーマが基地内で何となく資料に目を通していた時、珍しい人物が無遠慮にドアから入ってきた。
帝国軍を辞めてからは彼も基地では殆ど見ない顔になっていた。


「……おい。アイツはいつ帰ってくるんだ?共和国にいるんだろ。」
「…さあな。俺は知らん。急ぎの用があるなら連絡を入れてみたらどうだ。」
「国境付近の砂嵐で連絡がつかないからわざわざ来たんだ。…知らないならいい。」


横柄な物言いをしてレイブンはあっさり背中を向ける。トーマは内心、一喝してやろうかという気になったが彼がヒカルを慕う心が分かっている半面、喉元でぐ、と押し止めた。
彼女はその思いは受け止められないと断っていたが、レイブンは自らの意思を折ろうとはしなかった。戦時中から比べればヒカルが共にいる時は随分ましだが、レイブンからすれば同僚であるトーマや、人見知りをしないバンなどは邪魔な存在でしかない。特にバンやフィーネと知り合ってからは共和国領内に出向く機会が増えた為、彼は複雑な心境を大層もて余していることだろう。


「…そうだ、この話は知っているか?共和国軍の中にヒカルの想い人がいると。」
「何…!?」
「雑魚が。恐らくデマだろうが身の程を知らないにも程がある。名前が分かれば演習で消してやってもいいんだがな。」


吐き捨てて出ていくレイブンに思わずトーマは立ち上がるが、彼はそのまま廊下へ消えた。付き合いは長いが浮いた話は全くといってあがらない彼女の話題に内心酷く動揺する。
誰より尊敬する兄よりも魅力のある人間が共和国にいるというのか。…いや、所詮噂だ。戻ってきたら直接聞いてみればいいだけの事。
トーマは心を落ち着かせて再び椅子に座り直した。

***

「オコーネル大尉!強化パーツの設置終わりましたよ!どうぞ、試運転して下さい。」
「ああ、ありがとう。たまの共和国なのに基地に呼び寄せてすまないな。」
「いえ。ドクターDともお会いできて大変有意義な時間でした。ハーマン少佐にもよろしくお伝え下さい。」


元々、進んで他人と接する性格ではないが、ヒカルは共和国にもこの所月に一度は足を運んでいた。新しく出来た友人達に会うのも目的の一つだが、もう一つ、彼女には秘めた想いがあった。
噂はあながち間違いではなかった。彼女は共和国のある人物に淡い好意を抱いていた。ハーマンの部下であるオコーネル、上司を真っ直ぐに尊敬し、しかしどこか愛嬌のある彼の行動が憎めなくて。近くにいると何だか楽しくて。気が付けば目で青い髪を探してしまう自分を最近自覚してしまった。

(…だからといって、どうなるわけでもないけれど。)

隣を歩きながらふわふわした気持ちに蓋をする。付き合いたい、とは思えない。こうして一緒に仕事が出来るだけで彼女は幸せな気持ちだった。


「おーい!オコーネル大尉、と。今日はヒカルも来てたんだな!」
「バン君!お久し振りですね。お元気そうで。」
「こいつは昔から元気とヤル気だけが取り柄だからな。で、なんだ、バン?」
「ハーマンがさ、昼休憩にしようって」
「敬称をつけんか!」


思わずそのやり取りに笑みが零れる。オコーネルがその顔を見て、薄く頬を赤らめていたのたが目を伏せていたヒカルが気づく事がなかった。
おおらかな女性だが、快活なムンベイとはまた違う雰囲気を漂わせる人間だった。共和国に足を運ぶ切っ掛けになったのはバンやフィーネと友人になった経緯からだが、知り合って暫く経つ今ではたまに個人的な連絡を取ることもある。
どちらかと言えば大人しく表情をあまり変えないががたまに見せる明るい笑顔に好感が持てた。彼女が兵役を退いてからは更に国境を行き来する機会が増え、そのメカニック技術の腕は一般だけでなく共和国軍と帝国軍の架け橋にもなりつつある。
彼女の力になりたい。そう思い始めたのはいつ頃からだったろうか。
隣で配給食を頬張るヒカルを横目に、オコーネルも食事を取り始めた。


「……なんだ、様子を見にきてみれば随分楽しそうじゃないか。ここは遠足場か?」
「――レ、レイブン!?貴方なんで、」
「何日も通信に応答がないからだ。でなければ誰が共和国領にまで来る必要がある。」


ずかずかと当たり前のように基地に現れたレイブンにヒカルは反射的に立ち上がる。つられて隣のオコーネルも。バンだけが呑気に手を上げて彼に挨拶をしていた。


「よう、レイブン。何だよ、またヒカルにくっついて来たのか。まあ座れよ。」
「今は食事をする気分じゃない。」


鋭い瞳はオコーネルをじとりと見遣る。相対して傍にいるシャドーはジークと楽しげにじゃれていた。
ヒカルは内心、かなり動揺していたが努めてにこやかにレイブンのもとへ歩み寄る。


「心配させたのね。ごめんなさい。依頼してもらっていた整備も終わったから明日一緒に帝国へ帰ろう?」
「…そうか。」


あまり表情は変わらなかったが、ほっとした彼の声に彼女は複雑な気持ちになった。愛情ではないが、大切な人間。弟のようなレイブンの想いを知るがゆえに接し方を迷ってしまう。

(自分から共和国の施設になんてレイブンは来たくはなかった筈…)

いまだ彼を快く思わない人間は多い。特にこの国では。
彼女は後ろを振り返る。心配そうに見つめるオコーネルにヒカルは苦笑してレイブンの背中をそっと押した。


「では大尉。私はこれで。」
「…ああ。またよろしく頼む。」


言いたい事は、話したい事はまだあった。
しかしオコーネルはそう返すのがやっとだった。


(オコーネル大尉とレイブンの戦いってなんかヘンテコだな)
(〜口を閉じてろ!バン!)
―――――――――――
マイナーだけどオコーネルも好きです。
多分、好きになると一途で優しいけど今一つ奥手。
きっとレイブンには敵わない。苦笑。
2016 06 19

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