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07僕達の拠り所


バイクを走らせて久しく戻ってきたミッドガルエリアは、かつての魔晄都市の周囲に新しい街並みが現れていた。レノから話には聞いていたが、この街が復興の第一歩として出来たエッジ。もはやティファが店を始めると行っていた場所が何処であるのか分からないくらい、当時と比べて建物は増えていた。

(―――皆、あれから無事で…暮らしているだろうか。)

すぐに連絡すべきか一瞬迷うが、彼女はまずミッドガルへと走った。賑わう街より、静寂を選んだ彼女が向かった先は…五番街のスラムだった。故郷のようにたまに訪れるようになったエアリスの街。教会に近付いて行くと、瑞々しい花の香りが漂ってくるような気がした。半壊した建物なのに、そこだけは別世界のように空気が明るい。ヒスイリアは目を細めると、バイクから降りた。

不思議だ。ここへ来ると、体の痛みが少しマシになったような気がする。野生の花が群生する側に腰を降ろして、彼女は軽く息をついた。
野花の側には簡易な生活用品が無造作に散らばっていた。黒い染みのついた包帯。誰のものか、察しはすぐについた。…彼女は黙ってそれを見つめる。

(……やっぱり、彼も…)

二年前、答えを掴みかけた未来が、揺らぐ。姿の見えない、かつて倒した筈の敵に、内側から喰われながら。一人で迷いながら歩くしかない現実。頼れる者は、自分が守りたい者で…打ち明けるには相応の覚悟が必要だった。
死の宣告を自らするようなものだ。ジェノバに毒されたこの肉体で生き長える事がどれ程困難か。自分が一番分かっている。

***

「……ヒスイリア。ヒスイリア、おい、」
「…ん、」


いつの間にか、少し眠っていたらしい。落ち着いた声。額に触れた掌の感触に彼女はゆっくり目を開いた。
一年ぶりにみる金色の髪。少し痩けた頬は青白く彼女は暫し瞠目した。確かめるように触れてくる手を好きにさせる。彼女と同様、クラウドもまた感じているようだった。
細胞が熱い。まるで共鳴するように、治まっていた痛みがぶり返した。
互いに顔色は変えないが、理解する。ヒスイリアはクラウドに手を伸ばすと、彼の腕に布越しに触れた。


「久しぶりね、クラウド。」
「ああ、…驚いた。戻ってきたら、突然いるから。」
「……うん。あのさ、前から思ってたんだけどさ。やっぱり私と君って、似てるよね。」


仲間を助けたがる癖に、理解しようとする癖に、自分を表現するのが凄く苦手で。前を見ようと頭では思うのに、苦しい時にすがるのは仲間ではなく美化した過去の思い出で。身体は強いのに、…心の奥底は、弱くて。今も、一人で悩んでいる。

ヒスイリアの言葉はぼんやりと抽象的だったが、クラウドは理解しているように小さく頷いた。


「俺達は……間違えたか?あの戦いは、無駄だったのか?」
「…。たくさん救われた筈よ。あの日、何もしなければあの日でこの星は壊れていた。今のエッジだって、存在しない。私たちはまた会えなかった。……でも、正しかったかは分からない。あの人は…生きろと。そう言ってくれた気がしたけど。」
「…。ティファ達には会ったか?」
「まだ。…ねえ、あの助けた男の子は…」
「デンゼルは生きてる。セブンスヘヴンで、ティファとマリンと暮らしているよ。」
「そう。あの子……頑張ってるのね。」


それは暗闇の中の、一抹の希望だった。自然と柔らかに笑ったヒスイリアにクラウドはかつてのエアリスを重ねた。彼女も、時折、こんな風に目を伏せて笑う女性だった。普段は快活な性格なのに、ふと、とても儚い笑みを浮かべていて。クラウドはその表情を直視出来ず、彼女に背を向けて立ち上がった。

ちょうどその時、着信が入る。
彼女へのメールの送り主はレノで、これから幾度目かの大空洞への調査へ向かうとの連絡だった。

ざわり、
嫌な予感がした。星痕が現れた時、聞いた声の事を思い出し、彼女は携帯を握り締める。折り返したが、繋がらなかった。


「…、止めなくちゃ。レノ達に、会わないと…」
「多分、ルーファウスはヒーリンだ。建物の場所は分かるか?」
「ええ…ありがとう、クラウド。後で、セブンスヘヴンにも行くから。」
「……ああ。ティファが喜ぶよ。」

「クラウド。」


ヒスイリアの声に彼はゆっくり振り返る。彼女は既に立ち上がり、出入り口の扉の方へ歩き始めていたが、その瞳は横目に彼を捉えていた。


「私、まだ生きていたい。…二年前まではね、よくもういいやって思う事があったけど。今は…死ぬのが怖いよ。」
「ヒスイリア…」
「話せて良かった。クラウドも、諦めないで。……またね。」


黒い外套が外の光が漏れる扉へ消える。クラウドは難しい顔でその背を見つめた。
眩しい、いつも。君は…俯いた俺とは違い、この暗い世界の中でも光の道を歩いている。胸が少し痛んだ。その光景が、かつて夢の中でみた最後のエアリスと重なるようで。

彼女だって、死ぬつもりなんてなかった。

クラウドは咄嗟にヒスイリアを追って外へ駆ける。
しかしそこには既に彼女の姿はなく、遠ざかるバイクの音だけが微かに聞こえていた。
――――――――――
2015 02 21

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