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06闇の片鱗


庭に蒔いた花の種が芽を出し、花弁を実らせる頃、ヒスイリアは一人でゴンガガ村に住んでいた。村へ戻ってから、一年半。あっという間の月日だった。

窓を開けると、いつもと変わらない朝の風が舞い込む。彼女はそっと目を細めると、暫くそのまま佇んでいた。
森から聳えていた魔晄炉の解体は終わり、緑が広がる景色の境目は青い空だけになった。昔の風景を村は取り戻しつつある。しかし、彼女がそれを一番見て欲しいと願った人達は既に星へと還ってしまった。
干からびる程泣いた後は、ぼんやりと、日々を過ごした。ミッドガルに戻る事も考えたが、もう少しだけこの家で思い出に浸りたかった。
軽めの朝食を摂った後、魔晄炉跡に彼女は向かう。森を抜け、現れたのは塞ぐ事の出来ない穴と、その周りを覆う草花だった。この荒れ地にも彼女は花を植えた。過去は消せないが、それ以上にこの村には命と平穏が取り戻せるようにと。


「…ザックス…。これで良かった、かな。」


風が駆け抜けた、その時だった。
強烈な痛みが身体中に走り、彼女はその場に倒れ込んだ。花弁が舞う。咳き込んだ彼女の口からは赤い血に混じって、黒い液体が溢れた。

―――……これは、罰だ。当然の。

混乱する頭の中で、ヒスイリアは思った。戦いに堕ちた者の末路。理不尽に他人の人生を奪ってきた自分には当然の結末だと思った。
涙が溢れる。痛みに対してもそうだが、咄嗟に頭に浮かんだのはレノの歪んだ顔だった。…会いたい。しかし、携帯を取る気にはなれなかった。

こんな弱った姿を見せれば、また…彼の心を痛める事になる。

星痕症候群、この頃、世界ではこの病気はそう呼ばれるようになっていた。

(フフ…、変なの。あんたの家族はもう居ないのにまだそんなに生きていたい?

ねえ、この壊れかけた世界にあんたは何を望んでるの?)


頭の中で声が響く。無邪気で、しかし酷く冷たい少年の声。誰――そう呟くが、声は出ない。自分の幻聴かとぼんやり思うが、聞こえる声は楽しげで、そして敵意に満ちていた。

(可哀想な人。滑稽だね。みっともなく生にしがみついて……いいよ、もうすぐ逢いに行けるようになるからそれまでは生きてみるといい。)

貴女は僕が殺してあげるよ…―――■■■。

嫌な感覚だった。かつて感じた事のある気配。全く同じではないが、それは『彼』のものと酷似していた。そんなはずはない。ヒスイリアは目を閉じる。最期に見た彼は、昔の、人格のある時の顔をしていた。一緒に逝く事も出来たのにそうしようとはしなかった。彼、ではない…絶対に。そう、信じたい。彼女は、拳を握り締めると、花に埋もれながら一人泣いた。
ゴンガガにはもう、居られない。村を、面倒ごとに巻き込むわけにはいかない。家族が居なくなっても此処はかつて家族がいた場所。守るべき場所に変わりはなかった。

ゆっくりと身を起こす。淡い色の花弁についた血を指で払った。口元を拭う。カウントダウンが始まった。

―――…行かなくては。戻らなくては、あの街に。

彼女は立ち上がって、空を見上げた。
頼りなく漂う雲を見上げて、ヒスイリアは金色の青年の事を思う。同じよう、魔晄の影響を多大に受けている彼は、果たして無事でいるだろうか。


「クラウド…」


呟いた声は掠れていた。

―――――――――――
2015 01 10

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