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08変化と不変


「やあ、これは珍客だ。君から出向いてきたのは此所で再会した時以来じゃないか?」
「…かもしれませんね。お久しぶりです、ルーファウス神羅。」


顔を会わせるのは一年ぶり。大袈裟ではなくここヒーリンへ来るのはそれ以上の月日が経っていた。ヒスイリアは言葉少なく、ルーファウスの姿を見つめた。
記憶している以前の体の傷は癒えているようだが、端正な顔を半分ほど覆っている包帯。相手も、同じように彼女の姿を見つめ返した。ヒスイリアの病巣は見た目には分からないが、その状態を感じたのだろう。
ルーファウスの意味深な流し目に、彼女は僅に眉を歪めた。


「……やはり、お前もジェノバに毒されていたか。気にはなっていたのだ。」
「レノ達は何処に。」
「既に数日前に大空洞へ発った。…今回は何か収穫があれば良いのだが。星痕は日に日に世界中へ蔓延している。原因究明の成果を急がねば人間はそう遠くない未来に絶えるだろう。」
「何故…」


言いかけて止めた。何故、彼らを行かせたのか。口に出しかけてなんと無意味な質問かと察した。レノは元タークス。それが以前と変わらずルーファウスについた時点で危険な任務もあることは承知の上だ。しかし意地の悪い笑みが、ルーファウスの顔に浮かぶと、あのメールが本当にレノからだったかも疑わしく思えた。過度な危険にレノが晒されれば自分が出てこないわけにはいかない、そう踏んで敢えてタークスを北の果てへ向かわせたのではと勘ぐってしまう。
彼女の表情から心情を読み取ったのか、ルーファウスは静かに訂正の断りを入れた。


「レノを行かせた事に他意は無い。私は前となんら変わらんよ。変わったのは君の方だ。」
「私が?」
「君は彼に甘くなった。まあ…、友人であり恋人なのだから当然だがな。」
「…」
「星痕のその状態も、奴には話していないな?」


彼女は黙って自分の髪に触れる。甘い栗色だった髪の毛はこの処、また変化の兆しを見せている。かつての薄い蒼紫に戻っていく感覚。ジェノバ細胞に再びこの身体を奪われていくかもしれない恐怖を、何故、話せるだろうか。話したところで、解決策はない。無闇に心配させるだけだ。
ヒスイリアは外套のフードを被ると、ルーファウスに背を向けた。


「何処へ行く?悪いことは言わない。此処に留まれ。我々と治療法を探す事が最も懸命な判断だ。」
「それは出来ません。私は…」


その時、ルーファウスの手元に入電が入った。息の荒いレノの声に、ヒスイリアは息を呑む。怪我はないのだろうか。酷いノイズに交じって聞こえてくる彼の言葉は彼女をその場から離さなかった。


『例のもの……手にいれたぞ、と。…イリーナと……ツォンさんが、…ガガッ…奴らに』
(奴ら…?)


報告に混じって聴こえてくる銃声の音。ヒスイリアは咄嗟にゴンガガで聴こえた少年の声を思い出した。険しい顔で彼女はルーファウスを睨み付けると、出て行けなくなった足に唇を噛み締めた。もし、あの声の主が、タークスと交戦になったとしたら。
彼らは一体、何を手にいれたのか。


「座標は?…私がいきます。」
「待て。ヘリは既にこちらに向かっている。二、三時間でここまで戻ってくるだろう。」
「でも、」
「我々も戦える。お前一人に頼らずともな。それに、以前ほどの力が今のお前に出せるとは思えないが。」


見透かすようなアイスブルーの眼に彼女は言葉を返せなかった。体を侵す痛みは、確かに強い。ヒスイリアは躊躇いの後、悔しさに奥歯を噛んだ。


「――私は…結局、ソルジャーにも、人間にもなりきれない。」
「…らしくないな。別にどちらかに確定させる必要はない。お前はお前だ。例え、今、ここでお前が暴走して私を殺したとしても、お前が私の友人である事に変わりはない。」
「…ふふ、そんな事。私の知っているルーファウスなら絶対言わない台詞です。」
「私とて変わった面もある。好きに解釈しろ。どうせお前は私が愛の詞を囁いた処で、それを幸せに笑う事はない。だが、これだけは言っておこう。この私を前にお前の男の趣味は正直、理解に苦しむよ。」


そういって穏やかに微笑んだルーファウスを、ヒスイリアは見つめることしか出来なかった。
優しい瞳は確かに二年前の彼にはなかったものだった。

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2015 02 28

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