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04霞む願い


ティファ達と再会した日の夜は、楽しかった。ちょうど物資の調達に出ていたバレットも戻ってきてセブンスヘブンの明かりは朝方まで消えなかった。
エアリスがいた教会で拾った少年はデンゼルと名乗った。目が覚めてからティファがおかゆを作ってやると彼は暫く口にしようとはしなかったがやがてゆっくりとスプーンを取った。
一口、一口。口に運ぶ度、静かに大粒の涙が零れるのを見て、ヒスイリアは黙って目を伏せた。いつかこの少年も笑える日が来るようにと願う。


「…いつ発つんだ?」


温くなったビールを片手に、クラウドがヒスイリアに声を掛ける。表情を変えず、クラウドの方を振り返ると明日、とだけ彼女は答えた。


「…あんたは迷わないんだな。そういうところ、ザックスと同じだ。」
「まさか…。迷わないわけがない。今だって充分迷ってるわ。でも、時間は限られてるから。」


ゴンガガの村人が永遠にそこで暮らしている訳ではない。きっと今、帰ったとしても、ザックスの両親はだいぶ歳を重ねたはずだ。
村を出てもう七年以上――相手が自分を分かるかすら、怪しいものだった。家出同然で飛び出した義兄を追って、何の疑問も持たず世界へ飛び出した子供時代。知らぬ間に魔晄炉の事故で荒廃した故郷は彼女の後悔の姿見でもあった。


「…世界は無くならなかった。でもなかなかハッピーエンドにはならないね。」
「でも…、それでも生きなくちゃ…いけないんだよな。」
「勿論。生きてないと、こうして話も出来ない。やり直しも、生きてるからこそ、考えて行動出来る。」
「…」
「ごめんね…、こんな時義兄さんなら上手く言えるんだろうけど。」


ヒスイリアが苦笑を漏らすと、クラウドも同じように眉を下げた。
結局、2日程セブンスヘブンの滞在を延ばして、彼女はエッジの街を出た。荒野をバイクで突っ切っていると、ちらほらと臥して動かなくなった人間が見受けられた。
ミッドガルに近くない場所でもメテオの被害は出ているようだ。ヒスイリアは髪を靡かせながら、大陸を南下し港を目指した。

(星の声は………駄目だ。聞こえない。)

あのとき、確かにライフストリームは星を守るために沸き上がり、この地に生ける生命は護られた筈なのに。襲い来るモンスターを切り伏せながら、剣に映る自分の姿を彼女は見つめる。
髪の色は栗色だが、瞳は依然として変わらず緑色に輝いていた。セフィロスとも、エアリスとも同じ色。その奥に潜む意味を、ヒスイリアは思案していた。

(あのとき…星は、星自身を守っただけ?私たちの生存は結果論でしかなかったとしたら…)

敵がいなくなると、自分が今まで何を信じてどう生きてきたか曖昧で、大切なものの守り方さえよく分からなくなる。その不甲斐なさに彼女はぐっと唇を噛み締めて。遠く見える砂嵐にヒスイリアは黙ってゴーグルを装着した。

掴みかけた答えは、仄かな感触を残して消えていく。
――――――――――
2014 12 07

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