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03新しい歩み


抱き締められた経験は記憶に少ない。
だからはっきり言い切れないが再会したティファの抱き締め方には、母親のような優しさだと思った。母親に抱き締められた事などないが、包むような温かさは目を閉じてずっと体を預けていたい感覚だった。


「…遅いよ。皆、どんな気持ちだったか、」
「ごめんなさい…、」
「レノ、もうヒスイリアを神羅に連れて行かないで?お願いだから静かに休ませてあげて。」
「おいおい、誤解するな。俺は誘拐しに来たわけじゃないぞ、と。別に好きにすればいい。神羅カンパニーはもう無いんだからな。」


彼と私は相変わらず友人にすら見えないようだ。ヒスイリアが可笑しくて少し笑うと、ティファは漸く彼女を解放して手狭だが作りかけのカウンターに案内した。
振り返ってレノを見つめる。仄かにヒスイリアが苦笑すると、彼はどこか拗ねたように肩を竦めた。

ティファが出してくれたのは、淡く湯気だつカモミールミルクだった。キッチンでことこと仕事をする彼女をヒスイリアは穏やかに見つめる。思えば旅の間、食事を切り盛りするのは専らティファの役目だった。目が合うと、ティファはどこか気恥ずかしそうに笑い、レノとクラウドの分も運んできた。


「…ティファは料理してる姿が似合うね。」
「えっ…。そ、そう?」
「なんだかほっとする。ティファの作るもの、いつも美味しかったもの。」
「…お店、前にしてたっていつか話したでしょ。」
「ええ。」
「また…始めようと思ってるの。少しずつだけど、私も前に進まなくちゃって。」


不安そうな顔でそう話すティファを彼女は見逃さなかった。ティファは自分に自信がない。かつて神羅を憎むままアバランチで行った過ちが大きなトラウマになって彼女を苦しめていた。


「ねえ、ヒスイリア。ここで一緒に暮らさない?エッジはきっとミッドガルに代わる新しい街になる。一緒に、ここでやり直さない?」


嬉しい提案だった。ヒスイリアはクラウドを見遣る。彼は何も言葉を告げなかったが、その瞳は肯定の意を湛えていた。やはりここでも不満そうだったのはレノだ。彼はどこか納得のいかない顔でティファの淹れた珈琲を啜っていた。


「ありがとう。…でも、私ももう決めているの。目を逸らしてきた事、私も向き合いたいと思って。」
「ヒスイリア…」

「ゴンガガに帰るわ。ザックスといた…あの村の再建を、先ずは一番に考えたいの。」


義兄の事をどう説明すべきか。いまだ答は出ていない。だが、生きている今、会いに行かなくてはならない気持ちに彼女は突き動かされていた。

***

「……ゴンガガに帰るなんて初めて聞いたぞ、と。」


煙草を吸いに外へ出たレノは開口一番、そう溢した。一緒にいるものと思っていた。神羅に属さなくても傍にはいるものと。漸く失いかけた時間が戻ってくる。そう信じて疑わなかったものをあっさり覆され彼の声は怒気を含んだものに変わっていた。


「…俺の勘違いか?お前も同じ気持ちだと、俺が勝手に浮かれてたのか?」
「勘違いじゃないわ。」


路地裏でヒスイリアがレノに寄せた唇。そのキスは優しいが苦い味だった。彼女が優しく微笑むとレノは顔を掌で覆ってため息をつく。


「ねえ…お別れじゃないよ、レノ。私達もまた始めるんだから。」


居なくなったりしない。会いに来るよ。
だから、貴方も時々会いに来てほしい。

真っ直ぐな姿勢は揺るぎなく、彼は止めることは出来なかった。

―――――――――――――
2014 11 29

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