×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -



39リミット解除


夜が完全に明けきる前、ヒスイリアは身なりを整えハイウインドへ戻った。船の近くで寄り添い、眠るクラウドとティファを一瞥した後、彼女はなるべく音を立てずに船内へ入った。
僅かばかりの安寧。メインルームへ入ると、意外にも既に全員揃っていてヒスイリアは驚きに立ち止まる。ヴィンセントの姿を捉えると彼女はその隣に腰を降ろし、声をかけた。


「…貴方はどこへ行ってきたの。」
「初めはもう一度ニブルヘイムを見ておこうと思ったのだがな。リーブと八番街の事後処理をしていたら時間がきてしまった。」
「そう…。」
「君も身体を休めていろ。クラウド達が目覚めたら、最後の戦いに赴く事になる。」


ヴィンセントの言葉に彼女は素直に目を閉じた。

***

「…あんたも帰ってたなら起こしてくれれば良かったのに。」


日が登り、中へ戻ってきたクラウドの言葉と表情はこれから大空洞を目指すには何ともミスマッチだった。ヒスイリアが可笑しくて苦笑を漏らすと彼は罰が悪そうに頭をかいた。
大きな戦いの前とは思えない和やかな空気。彼女は、少し照れながら拗ねた彼に形ばかり謝った。
剣を磨く彼女は普段と変わらない表情だったが、クラウドが武器に視線をやると、彼女は一度手を止めて神妙な顔つきで彼を見上げた。


「貴方と話して…迷ったんだけど、使う事にしたの。きっとこれが最後の戦いになるだろうから。」


ハイウインドは北の寒い空気の中を最果ての地へと進んでいった。

着陸してから深部へ。パーティは大空洞内の足場の悪い岩場を奥へ奥へと下って行った。先導するヒスイリアは現れるモンスターを効率的に薙ぎ倒す。ライフストリームの力を得た魔獣達は決して弱くない。しかしあまりに呆気なくヒスイリアが敵を蹴散らしていくもので、バレットはそれに懸念の声を漏らした。


「…あいつ、ちょっと飛ばしすぎじゃねぇか?」
「いや、そうじゃない。これまでヒスイリアは自分の武器で戦っていなかった。風龍の双剣は彼女が神羅にいた頃自ら鍛えていた剣…そもそものスペックが今までとは違うんだ。」
「ちっ……嫌味にしか聞こえねぇな。」


今まで本気出してなかったって事かよ。
顔をしかめるバレットにヒスイリアは無言で苦笑を漏らす。油断をしていたわけではない。ただ、使えなかっただけだ。五年前までの遺産には、手をつけられなかった。これまでは。そしてこれからも、今後この武器を使おうと思う事はないだろう。

―――全ては今、この時の為だけに。

空洞内の地鳴りが徐々に大きくなっていく。星の胎内が視認出来る程、彼らが核の側まで降りてきたその時。ライフストリームの輝きが膨れ上がり、巨大な影が奥底から這い出してきた。不気味な触手が岩肌を這い、おぞましい姿を晒したモンスター。その前面にはかつてニブルヘイムで保管されていたジェノバの頭部が歪に接合されていた。星に堕ちてきた厄災が今、目の前に。
彼女は共鳴するよう熱を持ち始めた身体を押して、緑色に輝く双剣を構えた。


「……クラウド。」
「?」
「もし、ジェノバが居なければ、セフィロスは人間として生きていけたのかな…」


いや、ジェノバが存在しなければそもそも彼は生まれなかったのだろうか。答えを求めない呟きを落として、ヒスイリアは二刀の刃を合わせる。巻き起こる一陣の風は澱んだ腐気を凪ぎ払い、ジェノバを一層殺気だたせた。
触手から繰り出される攻撃を避けながら彼女は刃に魔力を乗せて強化を図る。――不思議だった。全ての元凶である災厄と対峙している今、思い出すのは昔の、セフィロスの物憂げな横顔だった。


「もっと早く……私に力があれば良かった。」


詠唱の終わった彼女から放たれた巨大な鎌鼬はジェノバの触手を切り落とし、その身体をも貫通した。怒り狂うジェノバの叫びが耳をつんざく。しかし、彼女の力は圧倒的で与えた傷は深く、毒の体液を撒き散らしながらジェノバは弱々しく蹲った。直後、クラウド達が後方から攻撃を放つ。憎しみに駆られた緑色の目はヒスイリアを捉え、唇から紫色の血を垂れ流していた。
岩場が崩落し、悲鳴を上げながらジェノバは再びライフストリームの中へ落ちていく。
ヒスイリアはそれを黙って見下ろしていたが、やがて耳を掠めた羽根の音に顔を上げた。白い片翼。舞い降りてくる堕天使に誰もが目を奪われた。
美しい。世界を喰らおうとする悪魔となり人間の姿を留めぬ彼だが、言葉に成らぬ神々しさを纏っていた。


「―――セフィロス…」


空間が歪む。セフィロスの虚ろな目は、ライフストリームに溶けた母を見つめた後、ゆっくりとクラウド達へ向けられた。
―――――――――――
2014 05 04

[ 40/53 ]

[*prev] [next#]