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40崩落の鐘


虚ろに佇むセフィロスの背後からは、白い光が弱々しく漏れ出していた。直感的に理解する。あれがホーリーの輝きだと。封じ込められた白魔法は外側から押さえ付けられているよう限られた範囲で鼓動していた。…まだ間に合う。ヒスイリアがクラウドに視線を移すと彼も同様に気付いており、一度強く頷いた。


「エアリスの想い…… 俺たちの想い。その想いを伝えるために……俺たちは来た。さあ、星よ! 答えを見せろ!そしてセフィロス!!今、すべての決着を!!」


剣を構えたクラウドにセフィロスは漸く表情を変えた。彼の右手が掲げられた瞬間、辺りは闇に呑み込まれる。ライフストリームの光も、ホーリーの光も消えた真っ暗な世界。セフィロスの精神世界へ引き摺り込まれたのだろう。仲間達が動揺する中、ヒスイリアとクラウド、ティファだけが落ち着いて状況を呑み込んでいた。この感覚は知っている。ライフストリームの中に落ちた時と同じ。他人の声と意識に晒される異質な感覚。しかしライフストリームの中とは異なりセフィロスの世界は静寂と、闇。彼の冷たい殺意以外は何もなかった。


「…では早々に済ませるとしよう。お前達のせいで母が傷付いて泣いている。」

***

セフィロスの力は圧倒的だった。訳もわからないまま叩きのめされ血へどを吐いてクラウド達は倒れた。ヒスイリアも例外ではない。先程、ジェノバと交戦するまでの力は半分も発揮出来ていなかった。かつて戦場を共にした師。知り尽くされた技。膝をついた彼女の傍にセフィロスは悠然と歩み寄った。


「…親殺しとは。お前には心底失望したぞ。」
「私に家族は…もういない。」
「そうか。」


左側から蹴られて彼女は軽々と吹っ飛ぶ。ガードはしたがそれでも腕の骨が折れたらしく鈍い痛みが走った。剣の柄が掌から離れそうになるがどうにか耐える。
正宗の攻撃は凄まじい重圧で一瞬、腕が飛んだ錯覚に陥った。セフィロスは崩れ落ちる前にヒスイリアの髪を乱暴に掴むと、自らの顔の前まで引き上げた。


「奇妙なデジャヴだ。…昔から貴様は肝心なところでボロがでる。」
「っ…」
「お前に私は殺せない。だが、私は違う。」


手刀が光ったように目の前を過った。耐え難い激痛に悲鳴が上がる。左目を潰された…痛みに蹲りヒスイリアは血の混じった涙に頬を濡らした。

嬲り殺される。
そう感じた痛みと恐怖は久しく、彼女は震えそうになる歯を無理矢理噛んだ。


「…案ずるな。お前は死ぬのではない。直に私とひとつになり、共に世界を統べるのだ。」

……戦わ、なくては。

「母も赦してくれる。お前は細胞を分けた子供だから。」

この人を。絶対にここで倒さなければ。

「……セフィロス。」


何とか立ち上がってヒスイリアは再び剣を構えた。誰もが憧れた…、かつての英雄。彼が傍にいるだけでいくらでも強くなれる気がしたし、前を向いていられた。嫌でも思い出す。目を伏せる時に瞬きをする僅かな癖。義兄との他愛ないやり取り。素っ気ない仕草の中にも確かな感情があって。同じ色の目をしていた事が、あの頃はとても誇らしかった。


「させない…。絶対に!私は!!貴方一人を、化け物にはさせない!!」


突進する。眼に頼れば刃がぶれる為、気配だけでヒスイリアは剣を振るった。
倒せないならせめて刺し違える。血に塗れた唇で詠唱した呪文を至近距離から発動させようと懐に飛び込んだその時、後ろに飛んだセフィロスから正宗が右肩に放たれた。
梁付けの蝶のように、彼女の体は岩肌に縫い付けられる。激痛に歪む顔にセフィロスは残酷なまでに美しく笑んだ。獰猛な瞳にヒスイリアは息を呑む。
迫り来る死に、彼女が歯を喰いしばったその時。

――銀髪が、暗闇で波打った。

心臓を背後から貫く大剣。膝をつくセフィロスの後ろには傷だらけでそこに立つクラウドの姿があった。ヒスイリアは茫然と、光を失っていくセフィロスの目を見つめる。

「   」

血に塗れる彼が、声なく呟く。崩壊していく暗闇。消えていく英雄の姿にヒスイリアは目を閉じた。閉鎖された闇の世界が大空洞へと戻っていく。
クラウドは彼女に駆け寄りすぐ隣に膝をついた。


「…待ってろ!今、ティファに回復魔法を」
「………いいの。無駄よ。」


静かにそう語るヒスイリアの脇で、クラウドは手を握ろうとした。弱気になるな、皆で帰るんだ。そう言うつもりが、予期せぬ掌の感触に言葉が出てこなかった。

確かに姿はそこにあるのに、すり抜ける体。
言葉を失うクラウドに彼女は自嘲気味に顔を歪めた。


「…ごめんね。君には、先に伝えておいても良かったかもしれなかったけど。言い出せなかった。私は……実体じゃ、ないの。」


震える声が吐き出されると同時に、急速に体が薄れていく。あまりにクラウド達といるのはヒスイリアにとって心地が良かった。泣きそうになるクラウドを見つめて、彼女は申し訳なさそうに力なく微笑む。


「私の本体は…、前にここが崩れた時から大空洞の奥にある。あの人と…一緒に。だからミディールからずっと…いつまで思念体のこの体が持つか不安で仕方なかった。セフィロスを止める為に、止めるまで…と……」
「ヒスイリア!駄目だ、」

「…ごめんね。置いていかれるのが苦しい事、知ってるのに。ごめんね…クラウド…」


光が溢れる。目が眩んだ瞬間、ヒスイリアの姿は消え意識が一気に押し流された。

(駄目だ…皆で一緒に帰るんだ。生きるって約束したのに!)


「ヒスイリア――…!!!」


伸ばした手は空を切り。
クラウドは目の前が見えなくなるまで申し訳なさそうに微笑む彼女を必死に呼び続けた。
―――――――――――――
2014 05 11

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