×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -



13鳴動_中


「…そっちに居たか?」
「いや…此方には。…それより…先程、神羅兵が数人うろついているのを見た。休暇と言っていたが間の悪い事に今はタークスも居る状況だ。ユフィの事は一旦置いて一度、彼女と合流した方が得策と思うが…」
「…ああ、そうだな…。…そんなに遠くへは行ってないはずだ。もう一度探そう。」

***

石碑に触れていた手をするりと降ろし、ヒスイリアは目の前の女性を無言で見つめた。一人で佇んでいた時とは打って変わり、その視線はお世辞にも穏やかとは言い難い。
まだ思うように振れぬ長剣はレノに預けたまま。身に付けているのは気休め程度の短剣とマテリアのみ。

(…ついてないわね。)

胸の内でヒスイリアは一人ごちた。あの金髪の元ソルジャーと今、闘り合えば間違いなくやられるだろう。ぼんやりしていて彼女の気配すら気づけなかった。ヒスイリアは油断していた自らを叱咤し、周囲に気を巡らせた。


「偶然だね、こんな処で逢うなんて。…腕の怪我、もういいの?」


警戒するヒスイリアを他所に、女性は笑みを浮かべたままゆっくり足を踏み出す。ヒスイリアは彼女が一歩近付くと同時に同じだけ女性から距離を取った。


「…おかげさまで。」
「ここで何してたの?…お祈り?」
「まあ…、そんな所。」
「そう。…私は人探しなの。知り合いが急に消えちゃったから今、皆で探してるんだ。」


一言、女性が声をかけ一歩近付いては、ヒスイリアが短く切り返し一歩下がる。
一向に距離は縮まらず、時間だけが過ぎた。
やがて女性はそれに不満そうに軽く口を膨らませ、仕方なく歩み寄ろうとした足を止めた。


「んもぅ!…なんで逃げるの?そんな態度取られると傷付くなぁ。」
「…敵なんだから当たり前でしょう。」
「でも今は休暇中だから敵じゃないでしょ?」


刹那、ヒスイリアは彼女の言葉に気を取られて目を見開く。
どうして彼女がそんな事を知っているのか―――
咄嗟の事に言葉が出ない。
女性は彼女が驚いているその間にさっとヒスイリアの腕を絡め取り、満足そうに微笑んだ。


「ふふっ…やーっと捕まえた!」
「……どうして……休暇中だなんて…」
「ああ…さっきレノ達に偶然、会って聞いたの。吃驚した?」


少し低い目線から顔を近付け悪戯っぽく笑み、自分を見上げてくる女性にヒスイリアは少なからずたじろぐ。小さく頷くとそのあまりに輝かしい視線から逃れるようヒスイリアは顔を叛けた。


「……少しだけね。」
「素直じゃないなぁ、もう。…ま、いっか!今、時間あるよね?ちょっとお話しようよ。私、あれからヒスイリアと話してみたいと思ってたの。」
「……えっ?あ……ちょ、ちょっとっ」


唐突に、女性はヒスイリアの腕を組んだまま歩き出す。突然の事に彼女は抗議の声を上げるが、女性はそんな彼女に構わずそのままぐいぐいと引っ張った。
有無を云わせぬその態度に声のトーンが徐々に落ち、強張っていた彼女の腕からゆっくり力が抜けていく。
振り解く事は本当に容易い事だった。しかし、敵意を持たぬ人間を乱暴に扱うのも気が引けた。
小さくため息を漏らしながらも。ヒスイリアは名も知らぬ彼女の行動に一先ず付き合う事にしたのだった。


「エアリスよ…!」
「え…?」
「だから、エアリスって言うの。私の名前!」


仄かに日の差す木陰に腰を降ろし、女性は自らの名をそう名乗った。少ししてヒスイリアはああ、と俄に頷き、薄く開いた口を再び閉ざす。


「ああ…って、それだけ?」
「…それ以上、必要?」
「普通、よろしく…ってならない?」
「…断っておくけど私は貴女と友達になるつもりは無い。私が今貴女と居る理由は二つ。一つ目は知っての通り休暇中だから。二つ目は貴女が私に話があると言ったからよ。」


はっきりと線引きした雰囲気を出しながら、ヒスイリアはエアリスを見据えた。
こう言えば、大抵の人間なら拒絶を察する。関わる気など失せるだろう。しかしエアリスはそんな彼女の思惑と裏腹に変わらず終始穏やかだった。


「…そっか。…うん、分かった。」


頷いて、エアリスはとても柔らかく微笑んだ。全てを包むような優しい笑みにヒスイリアは内心、ひやりと汗をかく。…彼女は苦手だ。動揺した心を落ち着ける間もなく、エアリスは気にしない様子で口を開いた。


「じゃあ私が話したい間はヒスイリアはずっとここに居てくれるのね?」
「え…」
「だってさっき私が話したいって言ったからついて来てくれたって言ったでしょ?私、お喋りは得意だから!」


強気な目で笑うエアリス。この状況下でヒスイリアはその言葉に首を横にも振る事も出来ず、彼女は肯定と取れる沈黙を選ぶしかなかった。

エアリスの話はとりとめの無い日常話から始まった。主だってはほとんどが旅の事だったが…かつてミッドガルのスラムで過ごした日々、それは裕福な暮らしではなかったが悪くはなかったと。その言葉を嬉しそうに、…そして寂しそうに笑ったエアリスが彼女にはとても印象的だった。

もう帰れない場所。
全てが優しく思えた遠い昔。少し…似ているのかもしれない。ヒスイリアはそんな事を思いつつ、よく通る彼女の高い声にいつしか身を委ねていた。


「―――私、神羅に昔から関わりがあるの。今いる仲間より付き合い自体はずっと長いわ。」
「…何故?」


純粋に口を出た疑問だった。エアリスは見た所、戦い慣れもしていない普通の女性だ。神羅が興味を示すような特別なものは感じられなかった。
首を傾げているヒスイリアを見てエアリスは不意に神妙な面持ちになる。そして、決心したように顔を上げると、そっとヒスイリアに手を伸ばした。
頬に触れる指先。暖かな囁きがざわざわと耳を擽る。感じた事のない奇妙な感覚。しかし初めて体験するというよりそれはどこか懐かしい気がした。


「…ね、ヒスイリア。貴女…やっばり―――――――――」


エアリスが何かを感じて、次の言葉を口にしかけた時だった。突然、今まで抜け殻のようだったヒスイリアが顔を上げ、即座にエアリスを近くの木の影へ引っ張り込んだ。驚いて思わず声をあげそうになるエアリスを、ヒスイリアは手で制す。


「、きゃ…」
「黙って。…余計なもめ事は避けたいでしょう?」


エアリスがその言葉に目を瞬かせている間に、慌ただしい足音が聴こえてくる。
二人が息を潜めている、すぐ向こう側。その通りを銃とホルダーの擦れる音を響かせながら、複数の人間が通り過ぎた。


「ち…っ!見失ったか!」
「くそ!…あの女も役に立たんな。ああも簡単に奴らに捕まってしまうとは。」
「おい、口を慎め。仮にもタークスだぞ。…まあ、女の上に新米だ……期待する方が酷だろう。
 …ともかく、こっちへ逃げてきたのは間違いないんだ。探すぞ!」


神羅兵だ。
エアリスは聴こえてくる会話に少し身を強張らせた。対するヒスイリアは冷静に彼等が過ぎ去るのを確認して、エアリスから身を離し、周囲に気を巡らせる。


「…………。」
「あの…ヒスイリア…」
「…行かなくちゃ。イリーナが…仲間が緊急の信号を出してる。」
「え?」


彼女の言葉に、エアリスははた、と首を傾げる。そうして自分と同じように耳を澄ます彼女にヒスイリアは思わず小さく苦笑した。


「…無駄よ。貴女には聴こえない。普通の聴覚の人用じゃないから。」


軽く肩を竦めつつ、ヒスイリアは身を返す。今にも走り出しそうな彼女の背をエアリスは咄嗟に引き止めた。


「あ…、ま、待って!」


叫んだ声に、一瞬、その場の風が凪ぐ。不意に音の止んだ空間で、ヒスイリアはゆっくりと顔だけ向き直らせた。

翠緑の瞳が眼前のエアリスを映し出す。
しかし…彼女が見据える視線は、既にここを見ておらず。開かれた唇から洩れたのは…敵として、最大限の譲歩を込めた言葉だった。


「…さようなら、エアリス。…近くまでお迎えが来てるみたいだから、貴女はこのままここに隠れているといいわ。」
「っ、ヒスイリア!」


静止に留まる事無く、今度こそヒスイリアはその場を離れる。飛ぶように駆けながら彼女は携帯を取り出すと迷う事無く数桁のボタンを素早く押した。


「―――――私だけど。
今、イリーナは一緒にいるの?」

―――――――――
エアリスはすでにゴンガカ訪れてますから、彼女がザックスの妹である事を知っていますが敢えてここでは触れてません。
一方、ヒロインはヒロインで降りてくる情報がほぼセフィロス関連に制限されている為、エアリスが古代種である事をらず。普通の女性として接してます。
2005.12.24
一部改定。

[ 14/53 ]

[*prev] [next#]