夕方になり、あたりが暗くなり始めた頃
ようやく私は自室のベッドに飛び込むことができた。
最初の3ヶ月は、色々なやつと組まされることが多かったが最近は単独任務が多くなった。私自身も、その方が嬉しいし何より…気を使わなくていい。しかし、ここは膨大な仕事量だな。とつくづく感じる。立て続けに仕事を任されるため気がつけば休みなしの10連勤目だった。そろそろ、私も休みたい。ここでは、仕事ができるやつに任せっきりで仕事ができないやつは何か違うことでもやっているのだろうか。

10連勤を終えたところでも、私の感は鈍っていなかったらしい。





「私の部屋に、なんか用ですか」

扉の前で、誰かが立っている。
そう感じたのはつい数分前。ノックして入ってくる気配もないし…なんだこいつ。新手の嫌がらせか。ころ…心の中で思うのもやめよう。ぐだぐだと、考えていると今度はノックもなしに、入ってくる。足音はしない、そして、私はすかさずマドンナを出して場所を移動していた。




「は、何。いきなり」

やつは、あろう事かナイフを投げつけて来た。私にめがけて数十本。しかも私の居るベッドに適切に、急所めがけて。こいつ、デキる。そしてベッドを見れば、特徴的な形状をしたナイフがベッドに刺さっていて、最初に貰った資料の中で見た幹部様の一人だということにふと、気づく。名前はもちろん覚えていない。ただ金髪で、目元が隠れていて、しましまの洋服。そして、ティアラ




「こんにちは、おじょーさん。俺と遊ばない?」
「乙女を誘うときは、もっと色気のある誘い方しないと振られちゃうわよバンビーノ」

部屋に無断で入られたあげく、ベッドはずたずたにナイフで切り刻まれてしまうし、新手の誘い文句に私は当然怒りを覚えた。むしろ私が遊んであげる。糞むかつく。連勤で疲れているところを襲う、ということは相手は狙ってきている、殺しに来た、と考えてもいい。



「うしし、お前、殺す」
「あなたのお誘いはお断りよ、後ろ、ご覧なさいな」

一瞬にして、私は彼の後ろに移動し開けた扉に寄りかかるこいつ、ワイヤーまで張り込んでやがったか。ダガーナイフで切っといてよかった。危ない、もう少しで自爆、切り刻み事故を起こして、額縁につめられちゃうところだったかもしれない。なーんてね。
彼は、また狂気じみた笑みを浮かべて、振り返り走り込んだ。私も負けじと逃げる、だって、こいつ本気で私を殺りにきてる。少し挑発しすぎてしまったかもしれないと思ったときにはあとの祭



私と、ヴァリアー幹部による追いかけっこが始まったのだった









「あんた、もうもう、うざい!」
「ししし、じゃあ止まればぁ」
「じゃあ、止まって上げる」

カッチーンときた。いくら逃げても逃げても、ここの仕組みや間取りや何やら何まで知り尽くしているわけではない。私の歩は悪いのだから。もう遊びはやめよう。めんどくさい。何になるんだこんな不毛な追いかけっこ。
私は足を止める。振り返る。
ナイフが飛んでくる、綺麗に私に向かって。
じゃあ、少しだけ驚かせてあげよう。もういいんだ。幹部様が私と遊んでくれるってことは、つまりバレている、知っているということだ。

じゃあ、ね。マドンナ、少しゆっくりしてあげよう。

彼のナイフを。






マドンナの能力によって、彼のナイフはゆっくりした動きになり、ついには失速し床に落ちた。
物体の時間を遅くさせる。それが私が最初に発見したスタンドの能力。



「まじかよ」
「君は、永遠に私を捕まえられない。なぜなら、私が早いから。時間っていう壁が私を守ってくれる」
「すっげー。本当に時間を操れんのかよ」
「あっは、驚きー知ってるですか。私のこと」

やはり、彼は私に関する資料を読んだようだ。パッショーネが作った書類か、それともボンゴレが総力を上げて集めた資料か。多分前者。諜報チームによって、後者は情報操作がかかっているのを知っている。ジョルノあたりがミスタにでも作らせた資料ではないだろうか、詳しくは書いていないが要所要所で、分かるように書いてある無駄の無い資料を。





「本名スプモーネ、9歳からこっちの世界踏み入れちゃっているんだろ」
「私ばかり知られてしまって、あなたの事なーんもしらないわ。教えてくれるかしら」

本当は知っているはずだったけれども。しっかり資料は読んで、覚えればよかったのかもしれない。
しかし、私は幼い頃からパッショーネに居たため学校に通ったことがない。イタリア語だって話す事も読む事もできる、でも書くことは不安だし、今は岸部露伴のお陰で7カ国語をはなせるものの…スタンド能力を解除されてしまったら…神様、お願いします解除するのはやめてください。
どういうことか、というと覚えることが極端に苦手なのだ。だって訓練してきていない。



「お前こそ、知ってるはずだろ。俺がベルフェゴールだってこと」
「あー…プリンスザリッパー、てやつ?」
「王子、有名だしぃ」
「そうですか。よかったです、なによりです。失礼しまー」

す、と行って逃げようとしたら、足がワイヤーに絡まって転んでしまった。嗚呼、なんてことだ。どうして私はいつも、こう…脳内にプロシュートが蘇る。だからお前はいつまでたってもバンビーナ、いやマンモーナなんだ、って。
はずかしい、早くここから逃げ出したい。でもワイヤーはどんどん私に絡まって。私はどんどん焦ってしまって、足を更に窮屈にしてしまう。




「ししし、だっせぇ。こんなタイミングで普通ころぶ?」
「絡まってとれないし」
「いや、自分で絡めにいってんじゃん」
「もはや、足いらないんじゃないか。逆に考えよう。もう足なんて、文字通り足かせだって。うぎぎ!ぎぎぎ!!」
「ちょっと、やめろって、そのワイヤーは力ずくじゃあ」
「しかたない、マドン」
「まじで、そういう感じ?あー、もう、そこ動くなよ」

ナ、と言い終わるあたりだった。
私は無理矢理ワイヤーを引きちぎろうと秒速何メートルの時間を飛ばせば、外せるのではないかと考え実行していた最中。そして足にワイヤーが食い込み血がだらだらと出始めた頃、彼は少し引いた様子で自分のナイフを使ってワイヤーを外してくれた。もちろん足は痛い。もう足切って、ジョルノの元に行って直してもらえばいいやー程度に思っていた。


「流石に王子でも、どん引きなんだけど」
「うん、今思った。私もどん引き」

血がだらだら出てしまって、床を汚す。あー…しかも、自分の意味のわからない、本当に馬鹿でツメの甘いミスで。
先程まで、あんなに楽しそうに追いかけ回していた彼は、状況をよく掴めていないようで、未だに引いた顔つきで私を見ている。

あー…これ、どうしよう。



「おい、バカ女、立てるか?」
「あ、いいよ。歩けるし」
「は?どう見てもお前、歩ける怪我じゃねえだろ」

あ、本当だ。すっげー食い込んでる。骨見えちゃってる。よく私精神保っていられるなぁ。すっごい痛いなぁ。でも痛みを越えて熱いと感じているから、これはもしかして、やばいって言うやつかな。でも、本当こんな痛みでも気絶すらさせてくれない。スタンド使いは、よほどの怪我でも記憶を飛ばせないもんだ、なんてメローネあたりが言ってた気がする。スタンドで自分自身の動きを遅くすればいいんじゃないか。いや、でも足腐るかな。



「私の怪我周りの血の流れ遅くすれば、歩けるんじゃないかな」
「足腐らねえの」
「やったことないし、実験も兼ねて」
「いや、いや、いや。お前いつもこうなの、ていうか、なんで王子が突っ込まなきゃいけない訳」

全然印象違うしー。なんてベルフェゴールはつまんなさそうな顔をして私を抱え上げた。軽々と私を持ち上げたかと思うと、足を上に上げるように俵持ちをされる。うん、期待していなかったよ。プロシュートみたいにスマートな感じでくるなんて一瞬だけ少しだけ思ったけど、それはなかったですね。



「王子に扱き使わせるとか、殺すしかない」
「あ、うん。ごめんなさい」
「別に謝れって言ってる訳じゃないし、ししし、お前、キャラ変わり過ぎ」

別に変わっているわけじゃあない。少しだけ気が抜けてしまっただけだ。張りつめすぎた。こんな、敵ばかりの場所に安らぐ場所などない。私の安らげる場所など、暗殺チーム。ただそこだけだ。
だからこそ、この3ヶ月近く張りつめた様子で何も事を荒げないで来た。任務を行う度にチームは誰かしら死んでしまって、先輩からは疎まれて、同世代には嫌われて。なんだこれ、糞難易度高いでしょうよ。
流石に恩人でもあるジョルノを恨むのはお門違いだし、悶々とした日々が続いて判断能力が日に日に低下してしまっていったことも要因の一つだと思う。元来私の性格は、お高く止まっているようなやつじゃあない。
連勤で、疲れていたのだ身も心も。




「ったく、しょーがねぇな。おかまの所、連れてくしかねぇか」
「医務室じゃないの」
「お前、もう黙った方がいいぜ」

顔色、すっげーわりぃぞ。なんてベルフェゴールはまたドン引いた顔で言った。なんでこんな怪我したのに、足から上を見れば何事もなかったかのように平然としてられんだよ、と歩きながら言っている。確かに、言われて我に返ったら血が足りなくて吐き気してきてしまって。

意識が朦朧としてきてしまって。あー、まじか、結構きつい。




「お前、めんどくせーから気絶だけはすんなよ」
「あ、じゃあ、…話しかけて、ていうか、通る経路、把握して」
「は、何言って」
「マドンナ、」

は、え、まじで。
ベルフェゴールは、さっきまで1階を歩いていたはずだ。気がつけば、もう3階で。でも歩いた疲労感だけが残る。通った記憶もあとからついてくる心底恐ろしい馬鹿女、とベルフェゴールは呟く。私は、マドンナを使ってベルフェゴールの歩むスピードだけを早めた。だから、気がつけば目的地についていて、記憶があとから付いてくるような感覚になる。




「これが、スタンド能力。すごいでしょ」
「いや、お前の顔色の方がすげーから」

ベルフェゴールはそういいながらルッスーリアの部屋の扉を勝手に開けていった。






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