じっとしてろよ
マフィアのボス候補になって、毎日理不尽な目に遭ったり無理矢理勉強させられたり戦いを教わったりした。
その滅茶苦茶ぶりにいつの間にか『ダメツナ』のレッテルは消えた。
だけどまぁそれに気づかない馬鹿もいるわけで、世の中の所謂不良はオレに突っ掛かってくる。
以前なら兎も角も今はいちいち殴られるだなんて御免だし、喧嘩を売ってくる方が悪いのだ。
そんな気持ちで相手にしていたら逆に『強い』とレッテルを貼られた。
別に自分が強いと本気で自慢に思っている訳じゃない。
ただオレの周りが異常なんだ。
そしてそんな居場所にいるのだからそれは必然でしかない。
オレがどうしようがオレはオレでしかないし、関係ない。
それで何が言いたいかと言えば、『弱い草食動物ほど群れる』と言った雲雀さんは非常に的を得ていたと実感したってことだ。
だからといって彼のようにいちいち群れを倒そうと思わないが。
傍迷惑な評価に乗せられて無駄に数を集めて何がしたいと言うのだろう?
そりゃオレにだって仲間はいるしそれを否定する気は一切ない。
とはいえ、今目の前にいる奴等は分かっているのだろうか?
幾らそいつ等が仲間を集めたところで負ける気など全然しない。
退屈でめんどくさいだけだ。
守護者の一人と戦う方がよっぽど危険だし怖いし、それでも勝てるのが今のオレだ。
だから暇潰しにさえなりはしない。
けれど、今回は状況が違った。
不良どもが集まって喧嘩を仕掛けてきた。
それまではいい。
問題はそう、ディーノがいることだ。
通称跳ね馬ディーノ。
マフィアボンゴレと同盟の関係にあるキャバッローネファミリーの十代目ボスにしてオレの兄弟子。
五千人程の部下を纏めあげる力量だとか、部下を守る為なら何処までも強くなれる究極のボス体質だとかは尊敬出来るし、憧れている。
但しそれは空くまで部下の前だけだ。
部下がいなけりゃどうしようもないへなちょこだ。
そして彼は今、一人だ。
つまりは足手まといでしかない。
「つー訳で帰って下さいよ。てか、下がってろ」
綱吉は鞭を取り出して構えるディーノに声をかけた。
「おいおい何遠慮してんだよ。もっと俺を頼ったっていいんだぜ」
「誰が」
「勿論ツナがだぜ」
話が通じてねー。
「いやいいから。ロマーリオさんもいないんだからさあ」
「おいおい今はロマーリオは関係ねぇだろ」
「大有りだって」
ガサリと音がした。
「てめえらいい加減にしろ!」
漫才のように掛け合ってた綱吉とディーノに焦れたのか不良達が問答無用に拳を降りだす。
「任せろツナ」
「ムリ」
言いながら綱吉は近づいてきた不良を蹴る。
ぐわぁぁあ、と悲鳴を上げてるが気にしない。
ディーノと不良達の間に立つようにして構える。
ディーノを視界に入れつつ考える。
さっさと終わらせよう。
先に仕掛けようと走りだそうとした瞬間、慌てて右に避ける。
先程まで綱吉がいた場所を鞭が叩いた。
「ちょっ!アブねー」
「ワリィツナ。チョイとミスった」
「だから大人しくしてろと言っツッッ」
「あれ?おかしいな」
クソっ。
綱吉は心の中で毒づく。
何でか知らないけどへなちょこの時のディーノは味方を攻撃する。
それは無意識且つ悪気無しなようだが、もしかして実はオレを敵と見なしてるのか?と聞きたい。
不良よりもずっと危険だ。
避けて避けて避けて、時々手近にいる不良を鞭の贄にする。
一番不幸なのは、そんなのに喧嘩を売ってしまった不良達だったかもしれない。
何せ、状況が掴めない上に喧嘩対象は此方に眼中なし処か盾に利用してくるのだから。
「じっとしてろよ」頼むから。切実に。
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