壱
「うんっ、平和っていいよね」
「そーですよねっ。十代目!」
「ああ、のんびり出来るのはいいのな。野球も出来るしな」
「何を突然当たり前なことを言っているんだい?」
「何か言いたくなったんだよ」
獄寺君と山本と井伊君との学校の帰りにふと口にしたくなった言葉を発するとごくごく当たり前に三人から返事がくる。
ただそれだけのことだけれど、オレは沢田綱吉はなんだか嬉しくなった。
先日ついにボンゴレボスに就任することになってしまって、けれどいろいろあって延期になったことも、その原因の一つだと思う。
今ある日常が凄く大事なものに感じるのだ。
その幸せを抱き締めながら帰る途中、不意に何かを忘れているような気がした。
「アレ?」
「どうかしたんすか?」
「いや、気のせいかなあ」
「ツーナッ、何かあったなら俺らが力になるのな」
「ちょ、大袈裟だよ。ただ何か大事なことを忘れているような気がして。なんだろう?」
宿題はかばんに入っているし(やるのやだなあ)、買い物を頼まれてもいないし、なんだろう?
モヤモヤする。
思い出した方がいい気がする。
思い出したらいけない気がする。
考えれば考えるほど混乱してきて、つい立ち止まってしまった。
オレを心配する声が聞こえるけれど、それよりもと心が急かす。
思い出せ。思い出すな。
何を?
けれど分からなくて、顔をあげた。
そして、まだらの銀髪の変に派手な少年を見つけた。
少年も驚いた顔をして此方を見ている。
誰?
いや、知っているはずだ。
誰だっけ?
彼は、確か、オレの──
「零崎?」
井伊君の不思議そうな声がして、その単語を聞いて、何かがひらめいた。
あ、そっか。
彼はオレの──
──オレの家族だ。
そしてオレの意識は暗転した。
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