相反する立場 | ナノ




15

《side Detectiveboys》

阿笠邸の地下にある研究室のパソコンの前に座って灰原哀は考え込む。

事件が解決したあとの工藤君の様子が気になる。

てっきりいつものように事件を解決させたことに満足しているだろうはずの探偵がまだ事件は終わっていないかのように、それも答えが分からなくて苛々しているかのように考え込んでいた。

その時の様子から察するにあのマフィアと名乗るこの阿笠邸に住み着いた二人組が関係しているのだろうが、何があったのだろうか?

やはりあのランボという少年もフランという少年も信用に値しない、と考えたところで研究室の扉がノックされた。


「誰かしら?」
「俺、ランボだもんね。入っていーい?」
「こんな夜更けに女の子の部屋にくるなんて非常識よ」
「ごめんね。哀ちゃんに渡すものあったの忘れててさ。アポトキシン4869のデータ。いらない?」
「何ですって!?」


わざわざ部屋に入れる気などなく、適当に追い払おうとした矢先にとんでもないものを聞かされた。

アポトキシン4869は哀が研究していたものの最中に偶然出来上がった毒薬であり、それを飲んだ人はそれが毒と検出されずに死んでしまうというものだ。

そして何の因果かその薬を飲んだうち、工藤新一と宮野志保は死なずに幼児化してしまった原因でもある。

哀は今その解毒剤を作るために研究に没頭していて、その成分などを正確に覚えていなかったために難航しているのだが、ランボはそのデータを持っていると言った。


「入って」


様々にうずめく感情を封じ込めるように哀は扉の向こうの人物に声をかけた。

扉を開いたランボはキョロキョロと部屋の中を見ながら、パソコンの前に座る哀の近くまでやって来る。

「座って」
「ありがとうなんだもんね」

立たれたまま話し出されても困るから椅子を指差し座らせた。

「それで、」

焦る気持ちを宥めつつ哀は慎重というには直接的過ぎる言葉を投げ掛けた。

「アポトキシンのデータってどういうことよ」
「そのまんまの意味。これだもんね」

そう言うランボの手には一つのUSBメモリがあった。

おそらくその中に毒薬の情報が詰まっているとランボは言いたいのだろうと推測できる。

けれど、哀が聞きたいのはそれではなかった。

「何で貴方がそんなものを持っているのかしら。アポトキシン4869は組織の中でもそれなりに秘められていたわ。それが、外部の者に伝わっているだなんて、本物とは思えないわね」
「本物だよ。ボンゴレの情報網を甘く見てもらっちゃ困るな。何なら中を読んで見ればいい。ただ、これは取引なんだもんね」
「取引?つまり貴方からも何らかの要求があるということね。貴方はマフィアだと言っていたけれど、あの組織の裏切り者である私にいったい何のようかしら」

皮肉混じりな問答を口にしつつ、ボンゴレという組織について哀の知っている限りを頭に浮かべる。

とはいえ、接点がなかったために余りに少ない情報量で判断に困る。

本当に組織から何かしらの情報を盗み出せるほどの技量がそのマフィアにあるのなら、“取引”なんて言葉を使って哀から聞き出せることなんて簡単に知れることしかないだろうに。

「今までに何度か工藤新一の目撃情報があるんだけど、アポトキシンの解毒剤みたいなものがあるんだよね。それについての研究成果を教えて欲しいんだもんね」
「何のために?」

ランボの言う通り、哀は今までに解毒剤の試作品なら今までに何度か作り出せていた。

試作品というだけあって、それ自体が命に関わり兼ねない危険な物で効果もそれほど長くはない。

しかし、何故そんなものをランボは、或いはボンゴレは欲しがるのだろうか?

「だって、哀ちゃんもコナンもいつまでも子供のままじゃ大変でしょ」
「そりゃ確かに工藤君は早く元の姿に戻りたいと言っているわね」
「哀ちゃんは違うの?」
「さあね。それより、それがどうしたっていうのよ」
「ボンゴレにも才能ある学者がたくさんいるから、互いに情報を出し合いながらやった方が早く完成するんだもんね」

それはつまり、協力してくれるということだろうか?

「そうね。けれどそれをして、貴方達にどんな利益があるのかしら。それとも、アポトキシン4869を利用する為にそんな提案をするのかしら?」
「へ?」

ランボが間抜けな顔をする。

「違うんだもんね。それに、人を助けたいって気持ちにマフィアも何も関係ない…」

情けなく悲しそうな顔をしたランボが口にした言葉を頭に反芻させて哀は考え込む。

──何とも工藤君が言いそうなセリフだ。

ランボに向けて手を差し出す。

「それ貸して。本当にアポトキシンのデータが入っているようならその取引考えてもいいわ」




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