2
この世界に来て約二ヶ月の七月の末日の真夜中に鍵を掛けたにも関わらず唐突に玄関の扉が開いた。
この世界と時代では最新の、けれど私にとっては旧型の機能しか持たないパソコンのバージョンを上げるためにしていた作業を止めて胸に手を当てた。
ネックレスへと形を変えた武器を元の形に戻し、トップに大型のルビーを嵌め込んだ二枚刃のハルバードを握り締める。
気配を消して玄関まで急ぐと二人組の男がいた。
見るからに怪しい二人組だった。
30代ぐらいの男性とかなり高齢の男性。
今の時代そうそう身につけることのないローブなんてものを着ている。
幻覚でこの世界に来る前の年齢に見せかけた姿で男たちの目の前に出て行き一歩先に佇む老人の眼前にハルバードの斧の切っ先を突き付けた。
『誰?不法侵入だなんて随分と不躾だよね。それにこんな夜中に訪ねてくる神経も疑うなあ』
ハルバードを突き付けたまま脅しかけるように軽く殺気を込めて挑発な口調で言葉を投げ掛ける。
口を開こうとした老人に笑みを向ければ一瞬口ごもった。
「っ、リアナ・リリー・ポッターに会いに来た。彼女はどこにいるのかのう?」
老人が開いた口は英語を語りだした。
私の言葉はわざとか、単にイタリア語が分からないのか無視されたようだ。
それにしてもこの男たちは私を別人だと見なしているようだ。
このマンションを契約した時も、普段も私はこの姿で本名を名乗っていたというのに。
私の住処を特定したのなら、私の外見も知っていてよいのではないだろうか。
ここに出入りするのは私一人しかいないというのだから。
[←] [→]
back