賢者の石 | ナノ

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ホグワーツの授業は、ラピスにとって簡単で、同時に難しいものだった。
幼い頃から魔法を使ってきた為、恐らくどの生徒よりも魔法を使う事に長けていて、魔法の完成度も高い。
しかしその魔法は"能力に頼った魔法"であり、杖も呪文も必要としないものだった。
杖も呪文も使った事がない彼女は、それらを使った魔法に苦戦していた。
今まで魔法を使うに当たって呪文や論理などを全く理解していなかった為、今更理解しようとするのはとても困難な事だった。
"頭で念じ、杖を振り、呪文を唱えることを同時に行うと魔法が発動する"
彼女にとって、これが一番の問題だった。
頭で分かってはいても、実践するのは難しい。

特に【妖精の魔法】や【変身術】は、実践を伴う授業だった為に、呪文と論理を理解するのにとても苦戦した。
それでも、【変身術】の授業のマッチ棒を針に変える練習で、ラピスは見事にマッチ棒を針に変えることに成功した。
マクゴナガル教授は滅多に見せない微笑みを彼女に向け、スリザリンに一点与えた。

【魔法史】の授業では、ラピスはビンズ教授の話しを聞かずに魔法史の教科書を読みふけっていた。
本が好きで今まで多量の本を読んできた彼女は、一本調子の講義を聞くよりも本を読んだ方が頭に入るのだ。
クラッブとゴイルの鼾も気にならない程、彼女は読書に集中した。

【薬草学】の授業はホグワーツの敷地内にある温室で行われた。
土いじりや清潔とは言えないものも触ることがある為にドラコはブツブツ文句を言っていたが、ラピスは気にならなかった。
自宅でも庭の手入れをルーシーと行っていて、それが楽しかったからだ。

【天文学】の授業は夜行われた。
天体についての知識を学び、天体観測を行ったり、天体の動きを計算したりする授業だ。
ラピスは直ぐにこの授業が好きになった。
教科書も隅から隅まで読み、時間が経つのも忘れて望遠鏡を覗いていた。
最初の授業が終わって直ぐに、ルーシーに望遠鏡を送ってもらい、毎晩のように天体観測をするようになった。

【闇の魔術に対する防衛術】は、ラピスの一番苦手な授業だった。
まず、教室内のにんにく臭がとても酷いもので、流石のラピスも顔を顰めた。
授業も分かり辛く、どもりで何を言っているのか聞き取り難い。
1番の問題は担当のクィレル教授だった。
彼は普段おどおどして何かに怯えたような態度だったが、ラピスを見る時だけはどこかいつもと違う表情をしていた。
ラピスはそれに気が付いていたし、クィレル教授の絡み付くような視線に背筋がぞくりとした。
そして、彼を見る度に言葉では言い表す事が出来ない不快感に襲われた。

――「今日の授業は何だったかしら?」

朝食の席で、ラピスの左隣に座るダフネ・グリーングラスが聞いた。
彼女の隣にはミリセント・ブルストロードが座っている。
入学して五日が経ち、ラピスはドラコ以外のスリザリン寮生とも行動を共にするようになっていた。
彼女が望んで共にしているわけではない。
彼女は基本的に単独行動をしているが、ドラコが彼女に付いて行き、彼の取り巻きも付いて来る事によってこのような結果になったのだ。

「魔法薬学じゃないか?」

ラピスの向いに座っているブレーズ・ザビニが言った。
ザビニの隣にはセオドール・ノットが座っている。
ノットはあまり慣れ合う事をせず、偶々席が隣になっただけだ。

「魔法薬学の担当は寮官のスネイプ教授だ。父上がとても優秀な方だと仰っていたよ」

ラピスの右隣に座るドラコが言った。
因みに、彼の隣はクラッブとゴイルだ。
会話に加わることはせず、黙々とパンを口の中に押し込んでいる。

「グリフィンドールの奴等と一緒に授業なんて最悪よね」

ドラコの向いに座るパンジー・パーキンソンが顔を顰めて言った。
彼女はドラコに気があるらしく、彼を見る度に頬を染める。

「スネイプ教授は僕達スリザリン生を贔屓してくれるんだろ?じゃあ良いじゃないか」
「グリフィンドールの奴等がいびられるのを見物するにはもってこいだ」
「きっと沢山減点されるわよ」

その場の、ドラコを筆頭としたラピス以外の生徒が嘲笑った。
彼女は無表情のまま、ルーシーお手製のパンケーキを口に運んでいた。(生クリームがたっぷり乗っている)

グリフィンドールとの合同授業。
グリフィンドールのテーブルに目をやるが、ハリーとロンは此方に背を向けていた。
ドラコと彼等は仲が悪いらしいから、此方を見たくないのだろう。
ハーマイオニーの姿はない。

組分けの前に話した時以来、ラピスは彼等と一言も会話をしていなかった。
慣れない移動や授業に、他寮の生徒と関わっている余裕はなかったのだ。
それはどの一年生も同じで、教室が分からず授業に遅刻する生徒も多くいる。
今まで話せなかったのは仕方のないことだ。
余裕さえあれば話していたに違いない。
しかし、ふと疑問が浮かんだと同時に、ハリーの悲しげな表情を思い出した。
余裕があったとして、彼等と何を話すのだろう。
組分けのこと?
何故グリフィンドールじゃなかったか?
自ら話す必要がある……?
グリフィンドールとズリザリンは仲が悪い。
彼等もスリザリン寮生そのものが嫌いで、ラピスのことも嫌悪していたら?
此方に背を向けている理由がドラコではなくて自分にあったら……?
ラピスはパンケーキを口に運んでいた手を止めた。

「…………、」

そんな事を考えるなんて、らしくない。
彼等とは友達にはなったが、深く関わるつもりはないのだ。
"友達"と言ってもらえただけで十分だ。
ラピスは再び手を動かす。
胸がちくりと痛んだ気がしたが、気付かない振りをした。

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