福富青年とそれを取り巻く人外の話

人外パラレル、舞台は戦国時代のようなところ

福富:とある名家の時期当主
荒北:狼男
東堂:山神
新開:鬼

つい数日前までは、何の事はないいつもの日常だった。幼い頃からの友人新開と、最近、親い存在となった荒北。二人は人ならざるモノだったが、人間の俺を友として慕ってくれていた。更に、この国を治めるに俺がふさわしいと、力を貸してくれている山の神東堂と、四人で人の争いを鎮めたり、冗談をいいあってじゃれあったり、本当に楽しい毎日だった。ほんの数日前までは…

「新開、荒北」
「寿一!」
「バカ野郎フクちゃん!なんで来た!」

二人が姿を消してから、俺は東堂に、人間世界の裏で妖怪大戦争が起きていることを聞いた。鬼も狼男も狐や猫の妖怪も種族関係なく戦いが繰り広げられているという。特に人間と仲良くしていた者たちは集中砲火を受けていると。荒北や新開が俺のせいでそんなことになっているというなら、友として助けたいと思う。東堂に協力を得て、ついに二人を見つけた時、彼らは魑魅魍魎の妖たちに囲まれていた。

「女郎蜘蛛にろくろ、鵺までいるとは…醜いな」
「尽八まで!」
「おいこら東堂!フクちゃんこんな所に連れてくるなんてなに考えてんだボケナスがァ!」
「助けに来てやったのに随分な挨拶だな」
「頼んでねぇヨ!」

妖怪たちを斬り捨てて二人に合流する。

「東堂を責めるな荒北。俺が頼んだんだ」
「なんで!?」
「大切な友を失いたくなかったからだ」
「フクちゃん…」
「寿一…」
「とりあえず、ここの妖怪を倒せばいいのだな」

愛刀で次々と妖怪を倒していくと、最初は「人間ごときが!」と喚いていた奴らも怖じ気づいたのか、遠目からこちらを眺めている。

「ふむ、さすがはこの山神が見込んだ男よフク。妖の調伏まで軽々こなして見せるとはな」
「いや、お前たちがいてくれるからなせるんだ」

そう、お前たちという背中を預けられる仲間がいるから、俺は思う存分戦える。いつだってそうだ。一通り蹴散らすと、残りの妖怪たちはすごすごと引き下がって闇に消えた。手負いの二人を連れて家に戻る。

「二人とも無事でよかった」
「寿一…ありがたいけど、もう妖怪の戦いに首を突っ込むのはやめろ」

新開が眉を寄せてそう苦言を呈した。

「なぜだ?」
「今回はたまたまうまく退けたけど、まだ俺たちは他の妖怪に狙われる。どんな強いやつがくるかわからないだろ?寿一が刃を交えるべきは人間だ。こんなこと繰り返して寿一が目をつけられたら…」
「そうたぜフクちゃん、人間界を束ねて戦を無くすって張り切ってんのに、こんなところで妖怪なんかにやられちゃあ元も子もないんじゃナァイ」
「大丈夫だ。お前たちがそばにいてできぬことなどない」
「いやだから…いつでもそばで守っててやりてぇけど、そうはいかないこともある。わかんだろォ?」
「だからといってお前たちを見捨てることはできん」
「あーもー寿一の頑固者!」

意見を譲らない俺に頭を抱える。申し訳ないが、この友人たちのためなら、例え幽霊だろうが妖怪だろうが俺は戦うだろう。議論にもならない話し合いに、少し離れた位置で成り行きを見守っていた東堂がワッハッハと笑い出す。

「あァ!?なんだよ急に!」
「諦めろ二人とも。どうせフクにはかなわんのだからな」
「いやそうだけど、でも」
「それに、この山神がついていて負けるなどあり得んしな!」
「うっぜ!」
「ウザくはないな!」

荒北と東堂がじゃれはじめる。

「寿一」
「なんだ?」
「その、俺たちが居なくてさびしかった?」
「あぁ、寂しかったな。東堂も心なしかつまらなそうだったし、俺もそばに新開や荒北がいないのは落ち着かない」
「俺たち妖怪だよ?さっきのやつらみたいにこわーい妖怪だよ?」
「今更だな。特にお前とはもう何年付き合っていると思っているんだ」
「そうか、さすが寿一」

ありがとうと、ここにきて漸く新開が笑顔を見せる。

「あー、腹へったなー!」
「では握り飯でも作ってもらうか」
「いいねいいね!」
「明日はお前の好きな甘味処で団子でも食おう」
「やったー!絶対だぞ!靖友たちに言ってくる!」

団子がそんなに嬉しかったのか、二人へおもいっきり体当たりをして殴られる。なんだかやっと、いつもの日常が戻って来たような気がした。

おわり

妖怪大戦争の理由は妖怪を束ねる妖怪の世代交代みたいな感じですかね?
試しに支部にも上げた作品。

相坂

2013年9月4日

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