弱虫冒険譚第一章・下

黒幕の存在が明らかになってからは怒涛の展開だった。これが国の本気かとばかりにソーホクメンバーは目をかっぴらいて驚いた。目撃された位置、襲われた構成員が倒れていた場所、

所属している闇ギルドの所在地から、黒幕が根城にしている可能性の高いところを、次々と割り出していく。森の大木、海辺の洞くつ、街中の廃墟や宿。国の一大事ということで、トッ

プクラスの学者が何人も集ったのである。とにかく魔剣を取り戻すこと、これが第一だった。

「可能性の高い順に突入したが、どうやら敵は裏を読むタイプのようでな。もう候補が一つしか残っていない」

ソーホクを訪ねて来たジュイチが、眉間にしわを寄せてそう言った。一緒に来たハヤトは、隣でバナナを齧っている。

「しかし、実はこの展開も予想していなかったわけではなくてな、ここで我々はまた動くのをやめる」
「やめるのか?」
「表向きはな」
「つまり、国はこれ以上何もやりようがないらしいと相手に油断させる、ってことさ」

ハヤトはバキューンっと指を作ってシンゴを撃つまねをしたが、反対の手に握られたバナナの皮の所為でいまいち恰好がついていない。

「そこを撃つのか」
「お前たちがな」
「俺たちが?」
「もちろんお前たちにばかり負担をかけるわけにはいかない。ソーホクが突入したら、騎士団としてではなく、一般市民としてお前たちのあとに続かせてもらうつもりだ」
「・・・一般市民は剣もって突入しないッショ」
「ははは!その通りだねマキちゃん!」
「マキちゃん言うな!」
「え?ジンパチにしか呼ばせたくないって?」
「違うっ!」

ユースケの頭で、さすがに今回は神殿を出てこなかったあの巫女の高笑いが響いた。ぶんぶんと振って打ち消す。

「とにかく、お前たちには感謝している。国の組織には制限が多すぎてな、お前たちのような正規ギルドの存在にはよく助けられている」
「その内、もっと大きな依頼持っていくかもだけどそんときはよろしくな」
「これ以上の大きな依頼ってなんだよ?」
「まだ秘密だよジンくん」

意味深な言葉と、詳しい情報はその内持ってこさせるという旨を言い残して、二人はソーホクを後にした。

○笑う黒づくめの男

次の日、早朝に届いた情報を元に二つの組に分けられた。シンゴ、ジン、ユースケの三人と、ジュンタ、ハジメ、シュンスケ、ショーキチ、サカミチの五人の組だ。テルフミは何かあっ

た時のためにギルドで待機している。ジュンタたちが突入して、出て来たところをシンゴら三人と、あとで合流する予定のジュイチたちで叩くらしい。

「まぁ妥当な判断か」
「何がだ?」
「先輩たちが逃げ場を塞ぐ布陣が」
「オオトリは先輩たちってカッコいいですもんね!」
「いやサカミチくん、パーマ先輩が言いたいんはそんなんとちゃうと思うで?」

最後の候補、最初に襲われた闇ギルドの正面に位置する廃墟へ侵入した五人は、小声で話しながら隠し部屋を捜していた。普通のさびれた民家であるそこには、人が住んでいるような痕

跡は無かったが、つい最近付けられたと思わしき足跡があったのだ。実は足跡くらいは魔法で消せる。これは消し損ねたものなのかもしれない。ただ残念ながら、一つだけ不自然に残っ

ているそれは、敵の位置を割り出すほどの役割は担ってくれなかった。

「つまり、俺たちが仕留めそこねても、ある程度ダメージを与えられていれば先輩たちが確実に討ち取ってくれるってことだ。ですよねジュンタさん」
「あぁ、その通りだ」
「なるほど!さすがシュンスケくん」
「そういうことだったのか」
「おいハジメお前もか」
「すんませんわいも今納得しました」
「バカじゃないのか赤頭」
「なんやとスカシッ」
「はいそこまで。どうやらセオリー通り、この本棚の裏が地下室への道らしいぞ」

本の入っていない本棚の下には、何かが擦れたような傷がついていた。

「この小さな傷は消しておく必要がないと思ったのか、それとも気付かなかったのか」
「こじ開けますか?」
「シュンスケって意外と乱暴なこと言うんだな・・・魔法で開けられそうだ。サカミチ、やってみろ」
「ふぇ!?」
「魔法で宝箱を開ける奴があるだろう?マジックキャンセラーは使われてないようだから開くんじゃないかな?」

マジックキャンセラーとは、魔法を無効化にするトラップで、主に誰にも見られたくない引き出しや、宝箱なんかに使われることが多い道具である。

「わわわかりました!」
「緊張しなくていいぞー。上手く出来たらユースケさんに言っといてやるから」
「はい!」

本棚の前で小杖を構える。たしか魔法学の本によると、開封の魔法は見えない鍵をイメージして、それによって対象が開くようによく念じることだと書いてあった。深く息を吸って、吐

いて、吸って、吐いて、吸って・・・小さく呪文を唱える。小杖の先が白く光って・・・

「開けゴマ!」

カチャっと音がして本棚が開いた。成功したんだ、と、サカミチが安堵のため息をつく。

「ちょっ!なんで最後開けゴマにしたんや!ウケる!」
「最後の一言は要らなかっただろう」
「えへへ、つい」

本棚の裏には隠し階段があった。石造りのそこは気を抜いたら足音が響きそうで危ない。誰も言葉を発しないまま、慎重に階段を下って行く。やがて最奥まで辿り着いた。そこにあった

のは階段と同素材の扉が一つ。そっとノブを回すと、鍵はかかっていないようですんなりと一周した。

「いくぞ、三つ数えたら突入だ」
「「「はい」」」
「わかった」

ついに魔剣を奪った黒幕と激突するのか。ショーキチはわくわくしながら剣の柄に手を掛け、シュンスケは逃がすまでもなく自分が仕留める気で銃を握った。

「さん、にー、いちっ、突入!」
「やいやいやい御用やで魔剣泥棒!」
「御縄です!」
「逃げ場は無いぞ!」
「?」

中には、黒いローブを纏った長身の人影が一つあった。仲間はいないらしい。突然の来訪者に驚くでもなく、男は笑いだした。

「ヒッヒッヒッヒッヒ、なんやお前ら?こんなことまで御苦労さん」
「!!」

振り向いた男の顔をみてシュンスケは驚愕した。こいつの顔には覚えがある。覚えがあるどころが・・・

「お前はミドースジ!なぜお前がここに!?」
「スカシの知り合いか!?」
「誰やったっけぇ?あー思い出した、一年前の武術大会予選でわいにボコボコにされたヨワイズミくんやぁ」
「黙れ卑怯者!」
「騙される方が悪いんやん。普通予選の最中におかんが死んだ言われて信じるかいな」
「うるさいっ!お前が魔剣を・・・覚悟しろ!」
「あ、まてシュンスケ一人で突っ込むな!」
「アホスカシッ!」
「ヒヒヒヒヒヒヒヒ」

例の黒い剣を抜いてシュンスケの弾丸を弾き、後に続いたショーキチたちの間をするりするりとすり抜けて、あっと言う間に入口に辿り着いた男は、不気味な笑顔を浮かべて室内を見回

したあと、また会えたらええなぁと言い残して階段を凄い早さで駆けあがった。ショーキチたちも慌ててそれを追う。途中でその姿を見失ったが、外にいる先輩たちと挟み撃ちにしてい

るはずで、うまくいっていればすでに捕まっている頃だった。しかし、

「あれ?」
「あのっ!こっちにミドースジは来てませんか!?」
「来ていないが・・・まさか」
「ウガーッ!逃げられてもうたー!」
「なんて逃げ足の速い奴だ」
「ミドースジというのが黒幕なのか?」
「あ、フクトミさん」
「そうです!あいつが、魔剣を持っていました。間違いありません!」
「イマイズミくん、詳しい話を聞かせてくれるかい?」
「とりあえず一度中を調べネェとな」

あの石造りの地下には、いくつかの本と怪しい実験器具が残されているだけであった。つまり黒幕と思わしき者をまんまと逃がしてしまったのである。彼はソーホクの五人が来ることを

知っていたようで、からかわれたようで胸糞が悪い。特に因縁があるらしいシュンスケはダンッと壁を殴った。

それから一ヶ月、黒幕の正体が判明したにも関わらず、なんの情報もつかめていなかった。

「神がジンパチに言った一人の少年ってのが、あの男ってわけッショ?」
「そうなるだろうな。彼によって世界が闇に包まれるとは穏やかじゃない」
「で、それより俺たちはここを離れるってことでいいんだな?」
「あぁ」

ギルドの庭にソーホクメンバーが集められた。

「俺とジン、ユースケはこのギルドをお前たちに託して去ることにした」
「え!?」
「な、なに言うてますのんシンゴさん!」
「俺たちは本気だ。他にやらなければならないことができたんだ」
「で、新しいリーダーはジュンタだ」
「ジンさん!」
「副リーダーはハジメ、お前たちはこの俺が直々に育てたんだから大丈夫だろ?」
「まぁサカミチにまだ教えなきゃいけねーことあるけど、一人立ちできるくらいには成長してるし、あとは自分で勉強するッショ」
「ユースケさん・・・」

一ヶ月前から決めていたことのようで、後輩たちがいなくなられたら困るといくら説得してもそれを取り消すことはなかった。密かに荷造りも済ませていたらしく、最小限の荷物を抱え

て、先輩たちはギルドを離れた。

「本当にいなくなっちゃった」
「寂しいな」
「ジュンタさん」

また時期が来れば戻ってくる。とは言っていたが、それが何年先になるかはわからない。

二章につづく

書きたい事とにかく詰め込もうとしてこんなことになってしまいましたwwwww

2013/08/16

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