不思議な世界・後

「いかれ帽子屋、アリスとチェシャネコが来てやったぞ」
「あぁ、なんでもない日万歳のパーティーか」
「よく知ってるな」

帽子屋の奥へ行くとパーンッとクラッカーを浴びせかけられる。

「ようこそアリス!チェシャネコもありがとう、さぁ何でもない今日と言う日を祝おうか!」

いかれ帽子屋は田蕗だった。何でも今日は三月ウサギと眠りねずみは来られなかったんだとか。

「一人でさびしかったんだよ〜」
「そーかそーか、俺とアリスを大いに歓迎しろ」
「もちろんさ!」

紅茶とケーキとクッキーとマカロン、冠葉はそれを頬張っている。そう言えば僕、荻野目さんを探さないといけないんだ。

「あの、いかれ帽子屋さん。一つ聞いてもいいですか?」
「ん?なんだい?」
「時計をもったウサギを見ませんでしたか?その・・・・ちょっとわけがあって、探しているんです」
「時計ウサギのことだね。彼女ならハートの女王の城へ向かって走っていったよ。でも女王様との約束の時間はとっくに過ぎているからね、殺されちゃうかもしれない」
「え!?ほ、ホントに殺されちゃうんですか!?」
「この国は女王様が法律だから、彼女の機嫌を損ねたら即・・・・」

田蕗は右手の親指を立てて、左から右にスライドさせた。つまり、首をはねられるというジェスチャーである。

「そ、そんな・・・・女王様のお城ってどっち!?は、早く行かなくちゃ・・・・」

ガタンッと立ち上がる。

「何言ってるんだ。女王様に逆らっちゃダメだよ」

腕をぐいっとつかまれて椅子に落とされる。そのまま肩を押さえつけられた。

「は、放して下さい!行かなくちゃっ・・・・」
「ダメだよ」
「痛っ!ちょっと先生!」
「アリス、時計ウサギは運が悪かったんだ。彼女を助けるのは諦めなさい」
「運が悪かった・・・・!?」
「そうさ、今までにも何人も処刑されている。女王様のドルチェを作るパティシエも、ドレスを仕立てる仕立て屋も、ティアラを作った職人も、みんなみんな気に入らないと言う理由で殺されたんだ」

田蕗の目から光が消えた。だんだん顔が近づいてくる。何これ、怖い。

「で、でも荻野目さんは、時計ウサギは僕の友達なんだ。だから・・・・」
「だから助ける?君はとてもいい子なんだね。だったらなおさら行かせられないよ」
「っ・・・・放して!」
「ダメだよ」

言いようの無い恐怖感に包まれる。肩から田蕗の手を外そうと添えた手が震えていた。

「これは君のためなんだ」
「あなたは、自分の命を守るために友達を見捨てろと言うのですか?」
「わからずやだね。鳥篭の中に閉じ込めてしまおうか」

田蕗が、いかれ帽子屋がニタリと笑う。彼の後ろに大きな鳥篭が現れた。

「やだっ・・・・か、冠葉っ!」

視界がぼやけた。あぁ、僕は泣いているのか。いかれ帽子屋の狂気に触れて、僕は完全にパニック状態だった。やめて、田蕗は天然気味でよくおとぼけをかますけど、すごくいい先生なんだ。その田蕗の姿でそんなことしないで。やだよ、怖い。助けて冠葉、助けてっ!無意識のうちに冠葉へ助けを求めていた。

「いかれ帽子屋、そのへんにしとけよ」
「なんだいチェシャネコ、邪魔をしないでくれないか」

涙をぬぐうと、冠葉がいかれ帽子屋の腕をつかんでいた。ぐいっと僕の肩から彼の手を外す。

「おや?チェシャネコ、ずいぶん機嫌が悪いようだね」
「アリスには俺がいるから心配ない」
「本当に?」
「あぁ」

ふっといかれ帽子屋の雰囲気がかわる。狂気にまみれた怖い目から、いつもの見慣れた田蕗と同じ目に戻っていた。あれ?

「わかった。じゃあよろしくね」

ぐいぐいと、また冠葉に腕を引かれて帽子屋をあとにした。振り返ると、田蕗がのほほんとした笑顔で手を振っている。

「いかれ帽子屋は本当にお前を守ろうとしただけだ。悪気はない」
「う、うん」

そうだったんだ・・・・。10分ほど歩くと、大きな門の前に出た。門の前には、ハートのトランプをイメージしたのだろう衣装を纏った、眞悧先生がいる。

「おいトランプ兵、中に入れろ」
「え〜、仕方ないなぁ」

仕方ないなぁといいつつ、さわやかな笑顔で門をあけてくれた。更にぐいぐいと引っ張られるままに奥へいく。赤いドレスをまとった小さな背中を見つけた。あの後ろ姿はまさか・・・・

「陽毬?」
「あれがハートの女王だ」
「え、えぇえええええ!?」

陽毬がハートの女王?だって田蕗の話では、女王様は横暴で独裁者のような最悪の君主みたいな言い方だったじゃないか!それが陽毬なんてありえない!僕の大声に振り返った陽毬は、大きくて綺麗な目をしたいつもの陽毬に見える。しかし、彼女の足元を見ると、ぐるぐるに縛られた荻野目さんが転がっていて、トランプの兵が荻野目さんに斧を突き付けていた。

「っ、荻野目さん!」
「チェシャネコとアリス?」
「陽毬・・・・じゃなくて、女王様!そのウサギを殺すの!?」
「えっと・・・・だってみんなが殺した方がいいて言うんだもの」

何だって?あぁ、さっきの狂った田蕗と一緒だ。これは陽毬じゃない。陽毬がこんなこと言うわけ無い。周りがそうしろというからパティシエも仕立て屋もティアラ職人も殺したと言うのか。そんなことばかりしていたら国が崩壊する。僕はあまり頭はよくないけれど、独裁で国が潰れること、周りの意見ばかり聞く君主では国が成り立たないことは理解できる。

「陽毬!いや、女王様・・・・そのウサギは遅刻しただけなんでしょう?それだけで殺してしまうのは罪が重すぎます。過重な罰を与えてばかりいたらいつか自分に帰ってきます。あなたのためにもよくありません」

女王様はホケーッと僕を見ている。そんな女王様の周りで、トランプの兵たちがざわめき始めた。「女王様に意見を言った」「女王様に逆らった」「女王様を誑かそうとした」ひそひそと声が聞こえる。はたと気がついた。あれ?陽毬だと思って普通に注意しちゃったけど、ここは世界が違うんだった。ヤバいかなぁ。

「この者は女王様に暴言を吐いた!ひっ捕えろ!」

えぇええええええ!暴言じゃないんだけど!まずいまずいまずい、とにかく逃げなくちゃ。あわてて方向転換しかけ出そうとした時、何もない所でこけた。うわぁ、いらない所でドジっ子スキル発動。トランプの兵が僕の腕をつかもうとしている。あぁもうだめつかまってしまう。と、諦めていたその時、トランプの兵が吹っ飛んだ。

「アリスには触らせねぇよ」
「か、じゃない・・・・チェシャネコ!」

トランプの兵は冠葉が蹴り飛ばしてくれたらしい。ぐいっと引き上げられて片腕に抱かれる。トランプの兵たちが僕らの方へ襲いかかってくるけれど、すべて冠葉が交わしている。

「おい女王様、アリスを元の世界に帰したい」
「!!・・・・扉を開けばいいんだね」

女王様ははっと我に返ったように冠葉に応える。扉って何?元の世界に帰る?

「アリスが元の世界に帰れますよーに」

女王様こと陽毬がそう祈ると、僕の足元が光って急に穴が開いた。落ちるっ!スイっと冠葉は離れている。そうだ荻野目さん!急いで彼女を探すと、眞悧先生が縄を解いていた。大丈夫、なのかな。

〈暗転〉

キーンコーンカーンコーン、耳にチャイムの音が響いてはっとした。キーンコーンカーンコーン、目に大量の光が入ってきてまぶしい。キーンコーンカーンコーン、パチパチと目蓋を動かす。キーンコーンカーンコーン。目がなれた頃にあたりを見回すと、ちょうど授業がおわったところのようだった。「起立」、学級委員長の号令で立つ、礼がおわり着席までの一連の動作をこなすと、田蕗先生は教室を出ていった。

「あれ?」

あぁそうか、夢を見ていたのか。僕がアリスなんて変な夢。目の前に影が落ちる。見上げるとそこには冠葉がいた。

「よく寝てたな。田蕗がなんども揺すってたんだぜ」
「え?」
「よっぽど疲れてるのか?ちゃんと休め。無理すんなよな」

眉間にしわが寄っている。

「あ、ごめん」

もしかして僕の心配をしてくれているのかな。余計な心配をさせてしまった。それにしても揺すられていたなんて、全く気がつかなかった。

「ほらいくぞ」
「どこに?」
「今日は天気がいいから屋上で飯食うぞ」

そうか、昼休みになったんだ。

「弁当もって早く来い。山下が待ってる」
「うん!」

僕は、差し出された手をギュッと握った。

おわる

後半やっつけorz
らくらんや無双でも同じようなことやります。
長文ありがとうございました。

2011.10/26

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