不思議な世界・前

キャラ崩壊ハンパないので注意

授業中、ふと空を見上げると、渡り鳥が『く』の字になって飛んでいた。雲が動いている。ゆったりとした風に、押されて流れる雲の合間は青い空。ハッとするほどキレイな青だ。先生の声が遠い。閉じられた窓の向こう側から、色んな音が聞こえてくるような気がした。風の吹く音、鳥の鳴く声、虫の羽ばたき・・・・あぁ、なんだか目蓋が重いなぁ。

〈暗転〉

気がつくと、僕は青いエプロンドレスを着て、穴の前に立っていた。

「この穴なんだろう?」

中を覗き込んでも暗くて何も見えない。

「遅刻しちゃう!そこどいてー!」

はっと振り返ると、ウサギの耳を付けた荻野目さんが走ってくる。「わっ」と驚いて横にずれると、荻野目さんは穴の中に飛び込んだ。

「え!?ちょっと荻野目さん!」

僕はあわてて後を追った。穴の中はひんやりとしていてとても長いようだった。自分の足も見えないほど真っ暗で、いつ底に辿り着くのかもわからない不安で怖い。こんな時、冠葉か陽毬がいてくれたらなぁ。ふわっと落下速度が急にゆるくなったと思ったら、足が地に着いた。パッと明りがつく。周囲は青々とした木々の生い茂る森の中だった。

「あれ?」

おかしいな、穴に落ちたのだから、地下の洞くつの様な場所に着くと思っていたのに・・・・。それに荻野目さんがいない。

「“時計ウサギ”はあっちにいったぞ」

見上げると、猫耳を付けた冠葉が木の枝に腰掛けて僕を見降ろしていた。

「・・・・何してるの兄貴?」
「俺の名前は“アニキ”じゃない。“チェシャネコ”だ」
「え?」
「“アリス”、急いで“時計ウサギ”を追うんだ。早くしないと“女王様”に殺されてしまうぞ」
「な、に言って・・・・」
「あいつを助けられるのはお前だけだ。さぁ“アリス”時間がない、急ぐんだ」

チェシャネコ?アリス?時計ウサギ?女王様?冠葉は何を言っているのだろう。あれ、でもこのエプロンドレス、それにあの穴・・・・もしかしてここって【不思議の国のアリス】の世界!?

○不思議な世界

チェシャネコの冠葉に言われるがままに進むと、森の中で時籠ゆりさんに出会った。ゆりさんは黄緑色のワンピースを着て、頭に大きな花のかぶり物をかぶっている。

「ゆりさん?」
「あらアリス、私は花だけれど百合ではないわ」
「・・・・」
「よく見て頂戴、綺麗な薔薇でしょう。失礼な子、小さくしてしまおうかしら」
「え、あの・・・・」
「えーいっ!」

何が何だかよくわからないままにパーッと体が光る。頭上からふふふっと声がして、見上げるとそこには巨大なゆりさんがいた。違うな、僕が小さくなってしまったんだ。ひょいっとつままれる。

「可愛いアリス、さようなら」

そして、ぽいっと投げられた。

「え、え、え、えぇえええええええ!?」

ポトン、地面に落ちる。すると目の前に、葉っぱでできた家を見つけた。なんだろう、展開が早い。

「あの家には物知りの芋虫がいる。言って話を聞いてみろ」

ビクッと後ろを振り返ったら、大きな冠葉が胡坐をかいて座っていた。

「冠、いや・・・・チェシャネコさん、今どこから出て来たの?」
「ずっとここに居たんだ。それよりほら、早く入りな」

なんだか釈然としなかったけれど、よくわからないこの世界で他に頼れる人もいない。それに見た目が冠葉だから自然と信用できると思ってしまう。とりあえず、その芋虫の家をノックした。

コンコン

「待っていたぞ、何者にもなれないアリス」
「帽子様、じゃなくて・・・・芋虫様、ですか?」

緑色の芋虫の気ぐるみを着た帽子様が、物知りの芋虫なのか。

「私が貴様に言うことは一つだけだ。体を元に戻したければこの大きくなるマッシュルームを食べれば良い。食べ過ぎると巨人になってしまうから精々気をつけるんだな」
「大きくなるマッシュルーム」

原作ではたしか、大きくなるマッシュルームと小さくなるマッシュルームを交互に食べて調節するはずだったけど。

「あの、芋虫様」
「何だ?」
「どれくらい食べたらちょうどいいですかね?」
「何だ貴様、そんなことも聞かなければわからいのか。まったく使えない下僕だ」

あぁ、やっぱり下僕扱いなんですね・・・・帽子様は世界が違っても相変わらず偉そうだ。

「そうだな、一口食べればちょうどいいだろうな」
「一口でいいんですか」

パクッと一口かじる。再び体が光に包まれて、目の前に胡坐をかいた冠葉がいた。ほっと体から力を抜く。そうだ、帽子様は?足元を見ると、帽子様は大きなあくびをして家の中へ引っ込んでいった。

「次はあっちだ。ほら行くぞアリス」

ぐいぐいと引っ張られる、あれ?アリスってこんな話だったかなぁ・・・・。冠葉に連れていかれた所にあったのは“帽子屋”だった。

つづく

2011.10/26

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