ハチの巣落とし

CP無し

○ハチの巣落とし

     冠葉視点

これはまだ俺たちが小学生だった頃の話。陽毬が幼稚園の年中に上がって、俺と晶馬は二年生になった。黄色いカバーがはずれた黒く光るランドセル、当時はそれがとてもカッコいいもののように思えた。二人で得意げにそれを背負い手をつないで登下校する姿は、近所のおばさんたちに微笑ましげに見られていたらしい。そんなとある日、たしか夏休みも終盤の八月末頃だったか。同級生のタケシくん(と、当時は呼んでいた)が、ハチの巣を落として無事に逃げ切ることに成功したと電話をかけてきた。俺たちの2、3上の学年ではピンポンダッシュが流行っていたので、それを改悪したのだろう。「どうだすごいだろう」と威張るそいつにカチンときた俺は、晶馬を連れて同じことをしようとしたのである。まずハチの巣を探した。といっても、近所の神社に大きな巣があると噂があったのでほんの数分でハチの巣に辿り着いた。たしかに大きい。俺や晶馬の顔よりも大きかった。

「ほ、ホントにこれおとすの?」
「そうさ。タケシくんはやったんだ。おれたちにだってできるさ」
「う〜ん・・・・」
「なんだよしょーまいやなのかよ?」
「いやっていうか、コワいよぅ」
「なんだと?しってるか、そういうのイクジナシっていうんだぞ」
「イクジナシ?」

コワいと渋る晶馬を説得するために、当時誰かから教えてもらったばかりの言葉を使った。

「そうだ。おまえもおとこなら虫ごときコワがるな!」
「う、うん・・・・」
「・・・・だいじょぶだって。おとしたらすぐ走ればいいんだ」
「早く走れるかなぁ」
「しょーまは足おそいけど、おれがいるからへいきだよ」
「そ、そっか。ってかんばもぼくとあんまりかわらないだろ!?」
「だいじょぶだいじょぶ」
「ホントにぃ?」

たしかそんな会話をしながら、長い枝を探していたはず。幼い俺たちの背はとても低くて、ハチの巣を落とすにはかなり長いものが必要だったのである。

「あ、かんば、これくらいでとどくかな?」

晶馬がずりずりと枝を引っ張ってくる。太さはそんなに無いが長さは十分なものであった。

「おう!よくやったしょーま!」
「えへへ」

俺に褒められて嬉しそうに笑っていたっけ。今考えると結構な阿呆面だった。いや、いまもよくそんな阿呆面をしている時があるな。そう言う所、昔からかわらないな。晶馬が持ってきた長い棒は、思っていたよりも重くて、二人でなんとか持ち上げられたくらいであった。よいしょっと、掛け声をかけて持ち上げて、ハチの巣を何回も叩いた。中からハチが出てきて俺たちの方へ降りてくる。これはマズイ、とすぐに逃げることになったんだ。

「わ、やべっ!にげるぞ!」
「う、うん・・・・あっ」

晶馬がこける。今あの神社は石ころ一つなく整備されて、多分当時も子どもが怪我をしないように取り除かれていたはず・・・・つまり晶馬は何もない所でこけたのだろう。

「しょーまっ!」
「いっ!」
「しょーま!?」
「ふぇ、さされたぁ」
「!?」

それを聞いて焦った俺は、急いで晶馬の手を引いてその場を離れた。

「あし、いたいよぅ・・・・うぅ、ぐすっ」

片足を刺された足を引きずる晶馬を、なんとか神社の鳥居の外まで連れ出したあと、ハチには毒があるって話を思い出して二人とも大泣きしたんだったな。

「は、早くなんとかしないと、しょーまが・・・・どうしたらいいんだよぅ」
「ぼくしんじゃうの?やだよぅ、もっとかんばといっしょにいたいよぅ」
「しょーま・・・・」
「う、ぅわぁああああああん!」
「なくなよぅ、なくなよぉおおおおお!」

それから、わんわんと泣き叫ぶ俺たちの声を聞きつけたどこかのお兄さんが、こういうことに詳しい近所のおばあちゃんの家まで連れて行ってくれた。おばあちゃんは、晶馬の足からハチの毒を吸い出し、すりつぶしたタマネギを塗る。なんでもタマネギには解毒効果があるんだとか。おばあちゃんの知恵ってやつだな。そのおかげかハチに刺された場所はあまり腫れずにすんだ。今思えばハチに刺されたくらいで大げさだっただろうか。いや、あの頃は今と比べて全てが未知の世界だったのだ。ハチに毒があるイコール刺されたら死ぬ、そう思っていたからとても怖かった。

「なんて事があったんだけど、お前覚えてるか?」

陽毬に、「昔の二人の思い出を教えて?」と言われて話し、その流れで台所にいる晶馬に問いかける。俺よりもオツムの悪い晶馬のことだから覚えてないかもしれないな。

「覚えてるよ」

なんでわざわざその話をするんだ、と言わんばかりの恨めしげな目で睨まれた。

「あの時は俺たちも若かったよな」
「年寄り臭いこと言わないでくれる?まだ若いから」
「ふふふ、二人とも小さい頃から今もずっと仲良しさんだね」
「あ、そう・・・・かもね」
「まぁ、仲悪くはねぇよな」

晶馬と目が合う。恥ずかしげにそらして、こっそり微笑んだ。まさか、晶馬も同じことをしているとは気がつかずに。陽毬がそれを見て嬉しそうに花がほころぶような笑みをしているとは気がつかずに・・・・。
今日も我が家は平和である。

おわる

結末にいつも悩みます(--;)

2011.10/24

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