さぁ、歌おう
CP無し、ほのぼの
side S
今日は、スーパーが早めに閉店する日。普段は21時ごろまでやっているのだが、なんでも今日は棚卸し作業があるのだとか。18時なのに閉店音楽が流れているなんて変な気分だ。哀愁漂う『蛍の光』。卒業式の歌として有名だが、僕らは歌ったことがない。卒業ソングと言えば『旅立ちの日に』や最近のポップスが主流だったから。でも・・・・
「この曲ってなんかいいなぁ」
side H
サンちゃんとの散歩から帰ると、買い物から帰ってきた晶ちゃんが夕御飯の支度をしていた。ご機嫌なのかめずらしく鼻歌を歌っている。何の曲だろうと耳を澄ます。ゆったりとしたこのメロディ、聞いたことがある!『蛍の光』だ。昔の学園ドラマの卒業シーンで、流れていたのを聞いたことがある。晶ちゃんの柔らかな声にとてもあってると思う。
「晶ちゃん、その歌素敵だね!」
side K
あぁ散々だ。阿佐美の奴、“高倉冠葉恋愛被害者の会”なんか作りやがって。と悪態を付くも、自業自得なだけにあまり強く言えない。もう少し一人一人に優しくしておけばよかった、と自己嫌悪をしてももう遅い。ため息を吐くばかりだ。早く家に帰って、可愛い妹に癒され、弟のうまい料理に満たされたい。早足で帰路を急ぐ。家の扉を開けようとしたその時、中から歌が聞こえてきた。
「蛍の光、か?」
No side
冠葉が「ただいま」と小さな声で家に入る。台所を覗くと、晶馬と陽毬が鼻歌を歌いながら夕飯の支度をしているようだった。優しげな晶馬の声と、綺麗に澄んだ陽毬の声。微笑ましげにそれを見つめたあと、冠葉は二人に声をかけた。
「珍しいもん歌ってんじゃねぇか」
「わ!おかえり冠ちゃん!」
「うわっ、気がつかなかった」
「ただいま」
「ね、ね、みんなで歌おうよ!」
「いいねぇ」
「行くよ。せーの」
陽毬のかけ声で再び歌が始まる。二人の声に、安心感のある力強い声が加わった。兄妹ながらに毛色のちがう三つの声が、家中に広がり、心地よいハーモニーを奏でている。
蛍の光 窓の雪
ふみよむ月日 重ねつつ
いつしか年も すぎの戸を
あけてぞ 今朝は 別れゆく
―叶うなら、この平穏がいつまでも続きますように。
そう願ったのは一体誰だっただろうか。
おわる
2011.10/22
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