むかしばなし
コレの幸村にょたver
○むかしばなし
語り・政宗
これはまだワシが幼子であった頃の話じゃ。父が治めるこの奥州に客が来たらしい。当時はその様なことにはまるで興味などなかったから、それがどこからきた誰なのかさっぱりわからん。ただ、それなりに地位のある奴だということは、家の者共が慌ただしくしていたことからワシにも理解できた。そういうある程度位のある奴が来るときほど、家にいてつまらぬことなどない。だからワシはお目付け役がおやつを取りに行ってる間に城を抜け出した。いま思えば、お目付け役の小十郎には少し悪いことをしたな。帰ったときには涙を流して狂乱しておった。
それで家を抜け出したあと、ワシは町に出た。幸い、ワシの顔は然程町人どもには知られておらなんだ。そんな時代であったから、その辺を走り回る子供より、少し育ちのいい坊っちゃんとでも思われていただろう。連立する様々な店をひやかしながら歩き続けてついた場所は、町外れの川原じゃった。そこには赤い着物を纏った子供が二人おった。
後ろから見ていたワシに先に気がついたのは背の高い方。聞けば其奴らは兄妹だという。兄はワシより歳上で、妹の方は同い年じゃ。主と共に奥州に来た父親に連れられたと言っておった。
「どこから来たのじゃ?」
「甲斐にございます」
兄の声は爽やかでしっかりハキハキしたものじゃった。将来いい武士になるだろう。根拠はないがそう思った。
「このような場所で何をしておる?」
「妹に、この書物の解説をしておりました」
「兵法です。私はあまり頭がよくないので・・・・」
おなごなのに兵法?と少し疑問に思うたが、それよりも妹の声の柔らかさと、花が咲き誇るような笑みに意識を奪われた。当時、“ぼんてんまる様”と呼ばれる度に、胸が激しく脈打ったのを覚えておる。兄によると、おなごながらに武術の才があるので、父親が兵法を覚えさせたいらしい。妹の方も、将来、すごい姫武将になるかもしれない。妙に気があって、その日はずっとその兄妹と遊んだ。かけっこは妹の方が速く、身体能力はずば抜けて高いらしい。陣地取りは兄の方が得意のようで、ワシも妹も勝てなかった。今思えばワシの初恋はあの妹だったのじゃな。兄妹の名も思い出せぬが、あれが切っ掛けで、少しづつ伊達の跡継ぎとしてのやる気が出たのだから大事な思いでじゃ。
「・・・・」
「む、聞いておるのか幸村?」
酒を飲み交わしながら長々と昔話などをしたから、ぼーっとしておるのだろうか。
「あの・・・・おそらくその兄妹は、私と兄上ではないかと思います」
「な、なんじゃと?」
「ぼ、“ぼんてんまる様”ですよね?」
「なっ!」
「すみません。私は最初から梵天丸様だと・・・・」
「気付いておったのか・・・・すまなかったな」
「いえ。あ、あの、私の初恋も、梵天丸様ですから・・・・」
「!!」
二人とも赤面したまま、それ以上何も言えなくなった。
おわり
2011.11/14
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