不思議な世界・後

三成さんこと白鳥は、私たちを向こう岸へ乗せていってくれると言った。

「それは助かる」

政宗様は、三成さんの背中に乗っかった。

「さぁグレーテル、お前も私に乗れ」
「あ、はい」

政宗様の後ろにまたがると、三成さんが唸る。高校生を二人も乗せていれば重い。ゼイゼイハアハアと息の荒い三成さんに礼を述べて森の中を進む。甘い匂いを辿って行くと、案の定、そこにはお菓子の家が建っていた。

「何じゃこれは・・・・菓子で作られた小屋が森の中に建っているなど・・・・!」
「ど、どうしますか?」
「食えるのか・・・・?」

試しに、と小屋の壁に塗られたクリームをすくいなめてみる。

「甘いな」
「生クリームですね」

口の中にこてこての甘味が広がる。甘いものが不得手な政宗様が顔をしかめた。その時、背後から声がかかった。

「そこで何をしているんだ?」

ハッと振り返った先には、孫市さん。黒いローブを羽織っている。おそらく魔女の役なのだろう。

「人の家を勝手に食っちまう悪い子にはおしおきだ」

ニヤリと笑い、孫市さんがパチンと指を鳴らしたと思ったら、次の瞬間、私は家の中にいた。政宗様の姿は無い。ここはヘンゼルとグレーテルの世界、と、言うことはまさか・・・・

「さて、じゃあ君には雑用をしてもらおうか。おっと逆らうなよ」
「ヘンゼル兄さんを人質にとったとでもおっしゃりたいんですか?」
「わかってるじゃないか」

やはりそうか。たしかヘンゼルとグレーテルのラストは、グレーテルが魔女をかまどに押し込んで、ヘンゼルを救い、宝物を持ち帰って家族全員で仲良く暮らす。そんな流れだったはず。孫市さんをかまどに・・・・そんなこと出来ない。そんなことを考えながら、私は孫市さんに言われるがままに動いた。

「グレーテル、汚れた食器が溜まっているな」
「いま洗います」
「グレーテル、窓が汚れているな」
「いま拭きます」
「グレーテル、そこに鼠が」
「いま追い払います」
「グレーテル、床にほこりが」
「いま掃きます」
「グレーテル、かまどに薪を」
「いま入れま・・・・」

かまど!?かまどに薪を、つまり火を焚くということだろう。どこかにつかまっている政宗様をかまどで焼いて食べるのか。いやでも原作では太らせてから・・・・少々展開が早いような・・・・。

「何やってるんだいグレーテル。早く薪を入れて火を焚いてくれ」
「え、あ、はい!」
「おいしい肉持ってくるからな」

どうしたらいいのだろう。このままでは政宗様が焼かれてしまう。助けるためには孫市さんをかまどに押し込んまなければならない。でも、そんなことしたくない。
震える手で薪をかまどへ入れた。

「えぇい放さぬか!」
「暴れないでくれよ。いまからお前を焼いて食べるんだ」

パチパチとはじける火を見つめて思い悩んでいると、政宗様を連れた孫市さんが戻ってきた。

「グレーテルそこをどいてくれないか。ヘンゼルをかまどに入れられない」
「っ!」

どうしようどうしよう。動こうとしない私をぐいっと押しのける。あ、政宗様が!

「やめぬか!」
「抵抗しないでくれよ」

私は無我夢中だった。ゴンッとその場にあった椅子を振り上げて孫市さんを殴る。あぁごめんなさい孫市さん!でもかまどに押し込むよりはだいぶ気が楽な気がした。目を大きく見開いた政宗様の腕を縛る縄を引きちぎり、手を引いてお菓子の家を飛び出した。急いで湖まで戻ったところで、私の意識は途切れた。


〈暗転〉


キーンコーンカーンコーン、耳にチャイムの音が響いてはっとした。キーンコーンカーンコーン、目に大量の光が入ってきてまぶしい。キーンコーンカーンコーン、パチパチと目蓋を動かす。キーンコーンカーンコーン。目がなれた頃にあたりを見回すと、ちょうど授業がおわったところのようだった。「起立」、政宗様の号令で立つ、礼がおわり着席までの一連の動作をこなすと、田蕗先生は教室を出ていった。

「あれ?」

あぁそうか、夢を見ていたのか。私がグレーテルだなんて変な夢だった。目の前に影が落ちる。見上げるとそこには政宗様がいた。

「よく寝ていたな。担任がなんども揺すっておったのだぞ」
「え?」
「よほど疲れているようだな。無理せず休むがよい」

眉間にしわが寄っている。

「あ、すみません」

もしかして私の心配をしてくれたのだろうか。余計な心配をさせてしまった。それにしても揺すられていたなんて、全く気がつかなかった。

「ほらいくぞ」
「どこにです?」
「今日は天気がいいから屋上で飯食う約束であろうが」

そうか、昼休みになったんだ。

「弁当もって早く来い。場所がなくなったら貴様の所為じゃ」
「はい!」

私は、急いで政宗様の背中を追った。


おわる

いろいろめちゃくちゃになってしまいました(苦笑)
ピンドラでやったやつの無双版です。
あとらくらんだけだぁ・・・。
長文ありがとうございました。

2011.10/28


[ 4/7 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -