集団下校
○集団下校
授業が思ったよりも長引いた。先生の無駄な長話で時間が潰れたとかではない。珍しく授業内容が面白くて、興味を持った生徒たちから質問が殺到したのである。隣で同じ話を聞いていた兵助も、質問に行きたそうにしていたけれど、先生に群がる生徒の数が多すぎて、いつまでたっても減らないため10分待って諦めた。その後、二人で空っぽになったペットボトルを捨てるためにゴミ箱のあるトイレまで寄って、エコキャップ運動に則り、中を濯いでキャップと本体を別に捨てる。ついでに用をたしてから駅に向かうと、途中にある本屋で雷蔵を見つけた。
「雷蔵!」
「勘ちゃん、兵助」
「その本買うの?」
彼の持っていたものを指して問う。
「う〜ん、買いたいんだけどお金が足りなくて」
「三郎に借りれば?」
「それも考えたんだけど、いつもいつも三郎の世話になりっぱなしなのもいかがなものかと思って。でもこれはもう絶版になってるやつで、新刊で売ってるなんて奇跡だし・・・・」
「だったら俺が貸すよ」
「兵助、いいのかい?」
「うん、もちろんさ」
欲しい本はそれだけかと確認して、雷蔵の手から然り気無く本をとって兵助がレジに行き、雷蔵が慌てて追いかけるのを見送る。そういえば、三郎と八左ヱ門もこの本屋の中にいるのかな。二人がいそうなコーナーを探す。八左ヱ門は『イヌノキモチ』とか『ネコノキモチ』とか、ペット関連の雑誌のところにいる確率が高い。じゃなかったら漫画だろう。ペット雑誌のコーナーの方が近いのでそっちに向かうと、いつになく真剣な顔で八左ヱ門がページを捲っていた。そうだ、ちょっと驚かしてやろう。そっと彼の背後に回って目隠しをする。
「だーれだ?」
「うわっ!え!?」
面白いくらいビクッと肩が揺れた。
「勘ちゃん?」
「そだよ〜」
ぱっと手を離して覗き込む。
「さっき雷蔵見かけて兵助と寄ったんだ」
「兵助もいるんだ」
「うん。ねぇ三郎は?」
「三郎?さっきTVジョン見てたけど、まだその辺りにいるかもよ」
「よし、じゃあ行こう」
ぐいぐいと八左ヱ門の腕を引っ張った。まだコラムが〜とか喚いていたけれど無視する。三郎は八左ヱ門の言った通りのところにいた。雷蔵と兵助も会計を終えたようで、俺たちより先に三郎と合流していた。そのまま五人で本屋を後にする。駅の待合室で電車を待ちながら鞄に入っていたお菓子を広げる。
「お、勘ちゃんそれプリッツー?」
「うん、ノーマルにサラダ味」
「一本くれよ」
「どうぞー、あ、みんなもいる?」
「うんちょうだい」
「サンキュー」
「俺は豆腐あるから」
「兵助また豆腐か」
八左ヱ門がお前って豆腐以外は何食って生きてんの、と兵助に迫る。
「いや別に豆腐しか食べないわけじゃないからな」
「でも勘ちゃんが持ってるようなお菓子はあんま食べないよな」
「あー、うん。でもポッキーやトッポはうまいと思うよ」
「・・・・いやこれプリッツだから」
あんまり食べないから混同している。
「プリッツがそれ?」
「そう」
「で、プリッツにチョコがついたのがポッキー」
「太くなって中にチョコが入ったのがトッポだよ」
「ちなみにポッキーのチョコが太いとフラン」
「混乱してきた・・・・後で覚えるからノートに書いといてくれよ」
「いやそこまでしなくても・・・・」
普段、勉強を教える側の兵助が、みんなから何かを教わっているなんて珍しい。そんなことをわいわいと待合室で騒いで、周りの人も迷惑かな〜と見渡す。しかし、待合室にいたのは俺たちだけだった。あれ?さっきまで白髪混じりのサラリーマンや高校生がいたのに。話に夢中になっているうちにどこへ行ってしまったんだろう。電光掲示板を見て愕然とした。
「電車一本逃してる!」
「「「「なんだってー!?」」」」
おわり
ただ、それだけ。
2012.6/20
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