デート日和・後

鉢竹

○デート日和・後

日曜日、八左ヱ門と約束した10時より30分早く着くように駅へ向かう。思わぬトラブルに巻き込まれたりしない限り八左ヱ門が遅刻することはない。だいたい10分〜15分は早めに来る。何が何でも俺が先に待ち合わせ場所に行くのだ。いままで散々あいつの誘いを断ってきた理由は、初デートは男の自分から誘うのだと固く決めていたからだ。なのに八左ヱ門が毎週誘ってくれるもんだからタイミングを逃し、散々断り続けるはめになった。あとで聞けば、そのことで彼女は俺が本当に好きなのは雷蔵なのではないかと悩んでいたらしい。変な意地をはって悪いことをした。腕時計の針が9時45分をさしたころ、遠くに灰銀の髪を確認した。

「さぶろー!」
「おーハチ・・・・」

いつもの彼女が着ないような、フリル付きのワンピースにヒールのあるサンダル、ほんのりメイクもしているようだ。・・・・可愛い。

「そ、そんなに変?」

じっと見たまま何も言わない俺に不安になったのか、八左ヱ門は下からうかがいながら問うた。所謂上目使い。

「・・・・普通」
「なにそれ!?」
「お、思ったよりそういう女っぽい服、普通に似合ってるって意味だよ」
「え?あぁ、そう・・・・」

嬉しそうに頬を染めて顔を反らす。その顔を見ていられなくなって、俺は八左ヱ門の手を引いて駅の中に入った。
最初の目的地はスタンダードに映画館である。少し前に教室で雷蔵とあれが観たいこれが観たいと話していたのを確認済みだ。もしものことを考えて二つほど候補を考えている。第一候補は犬と人のハートフルストーリー、第二候補は大人気洋画アクションだ。どちらもまだ上映中である。休日ということもあってか、映画館には人があふれている。チケット売り場の最後尾に並ぶ、がしかし、並んで10分前後、いざ買おうとした時に事件は起きた。

「満席?」
「はい、申し訳ございませんがその映画はすでに満席となっております。次の時間でしたらおとりできますが・・・・」
「いや、いいです・・・・じゃあこれは?」
「そちらも満席です」
「そう、ですか・・・・」

他の映画はどうだろうかと見てみても、正直八左ヱ門が喜ぶような内容のものはもう無かった。完全に休日の映画館をなめていた俺の失態である。

「三郎どうしようか?」
「次行くぞ次」
「次?」

再び八左ヱ門の腕を掴んで引っ張る。次に俺たちが向かったのはペットショップだった。本当は動物園や水族館に連れて行った方が喜ばれると思ったのだが、あいにく高校生のお小遣いで行ける距離にあるのはどれもこれもさびれている。本当は、映画を見た後にカフェで昼食を摂ってからペットショップをめぐってお開きにする予定だったのだが・・・・。近くのショッピングセンターにあるペットショップへ着くと、何やら騒がしかった。

「どうしたんですか?」

八左ヱ門が野次馬の一人に尋ねる。

「あぁ、ゲージから出した犬がお客さんに噛みついて奥の方で吠えているみたいだ。全く店員は何をやってるのかね。早く捕まえたらいいのに」
「犬・・・・三郎、俺ちょっと行ってくる」
「は?あ、おいハチ!」

ぐいぐいと人垣をかき分けて奥に行く八左ヱ門の背を追いかける。すると野次馬の言うとおり、隅にいるダックスフンドが店員やお客さんに向かって吠えていた。それを見て、手を出せずに困っている店員たちの前に出て、八左ヱ門はそーっとダックスフンドに近づいた。

「あ、お客様いけません!」

店員の制止の声を無視して、ついにダックスフンドまで辿り着いた彼女は、大丈夫大丈夫と犬に語りかけながらそっと顎を撫でた。犬はそのまま大人しくなり、八左ヱ門が抱っこして店員に受け渡した。

「はいどうぞ」
「あ、ありがとうございます」
「いえ、まだ怖がってるみたいなので、撫でるときは下からの方が良いですよ。それから、近付くときは慣れるまで目を合わせちゃダメです」
「わかりました。感謝いたします」

わっと周りの野次馬から拍手が巻き起こる。それが気恥ずかしかったのか、早く行こうと袖を引かれ、やむなくその場を立ち去った。次、といってももう残っているのはカフェしかない。いったん落ち着こうかとカフェでようやく一息つく。今日は失敗ばかりだ。計画が甘かった。

「悪い」
「え?何で謝るの?」
「録なデートにならなかった」
「えー、俺は俺で楽しかったよ。ダックス可愛かったし」

三郎と休みの日に一緒にいれて嬉しい。と微笑む八左ヱ門は、いままでに見たことのない表情だった。

「・・・・ら、来週の日曜日も開けとけよ!今日のリベンジするから」
「え?じゃあ・・・・やった!来週も三郎とデートできる!」
「あ、あくまで今日のリベンジなんだからな!」
「楽しみにしてるからな!」

負け惜しみのように叫ぶ俺を尻目に八左ヱ門はただただ大歓喜していた。絶対次は完璧な計画を立ててやる!


おわり

ペットショップであんなことがおきるわけない・・・・。

2012.5/17

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