デート日和・前

鉢竹

○デート日和・前

「三郎、今度の日曜日デートしよう」
「駄目。雷蔵と約束あるから」
「・・・・あっそ」

これでも、三郎と俺は恋人関係である。去年、高一の時にダメ元で告白したら、俺は雷蔵が一番だけど、それでもいいならとOKしてもらった。だから別に雷蔵との先約があるなら優先するのはいっこうに構わないのだが、こう何度誘っても毎回同じ理由で断られるとさすが悲しい。俺とデートしたくないとしか思えない。いっそ二人きりのデートは諦めて、雷蔵を誘った方がいいのではないかとさえ思う。
そんなある時、下駄箱に一通の手紙が入っていた。放課後に裏庭へ来いと言う。果たし状か、はたまたラブレターか。白い手紙を、思わずまじまじと見つめた。そして放課後、いつも一緒に帰るメンバーに先に帰るよう伝えて、俺はいま、手紙の差出人らしき男子生徒と向かい合っている。見覚えがあるようなないような。多分、同級生かな。

「あ、あの・・・・俺、竹谷さんが好きです!よかったら付き合ってください!」

彼は頭からお尻にかけてピンと一直線に伸ばし、きっちり45度傾いた。キレイな礼だ。緊張しているのだろう。太ももの横に添えられた手がギュッと握られている。わかるぞその気持ち。俺も三郎に告った時そんな感じだった。だけど・・・・

「ごめん、好きな人がいるのでごめんなさい」

告白一つにどれ程勇気がいるかはよくわかっている。彼ほど美しい礼はできないが、想いに応えられない分、せめていまできる精一杯を尽くそう。俺はいままでに無いくらい深く腰を折った。

「わかりました・・・・・・・・あの、厚かましいとは思いますが、一度だけデートしてくださいませんか?今週末の日曜日に。い、一度きりでいいんです!お願いします!」

彼はまた美しい所作で礼をした。今週末の日曜日か。毎度のことながら、どうせ三郎にはすでに断られているわけだし、もし万が一にも奇跡が起きて、三郎とデートが叶った時の予行練習も兼ねて、とか言ったら彼には失礼だけど、いいかな。

「・・・・うん、いいよ」

どうせ予定ないし、と伝えると彼は嬉しそうに笑ったが、その笑顔が急に引っ込む。ん?どうした?首を傾げると、後頭部をパシンと叩かれ、聞きなれた声が低く響いた。

「おい、日曜日は俺と約束あるだろう。忘れてんなよボケ」
「三郎・・・・?」

振り返るとそこには超不機嫌な顔をした三郎が立っていた。

「何でいるの?」
「居たら悪いのか?」
「この場面にいるのはダメだろ」
「じゃあお前は恋人の俺よりそいつを取るのか?」
「恋人って自覚あったんだ」
「あるよ。というわけだからこいつもデートも諦めてくれ」

俺の肩に手を回して、三郎はそう宣った。手紙の彼は頷いた。悲しそうに笑い、気持ちを聞いてくれてありがとうと言って去る。あぁ、可哀想なことをしてしまった。

「約束なんかしてないじゃん」
「・・・・」
「いつも通り断ったくせに」
「・・・・」
「まさかとは思うけど、焼き餅妬いてくれた、とか?」
「ち、違う!」

肩に回された手に力が入った。顔をうかがうとそっぽを向いているが、ほんのり頬が染まっている。うわぁ、説得力ねぇ・・・・。そっか、三郎も嫉妬してくれるくらいには好きでいてくれてるんだ。にやけそうになる口元を必死で抑える。

「と、とにかく日曜日は10時に駅!」
「え、デート?」
「デート!いいな!?」
「わ、わかった」

やった三郎とデートだ!思わぬ嬉しい予定が入った。あれ?でも三郎は雷蔵と約束があったのでは?先ほど教室で俺が誘ったら雷蔵と映画を観に行くって言ってたのに・・・・。

「なぁ、雷蔵との約束はどうし・・・・」
「ち、遅刻すんなよ!ほらみんな教室で待ってるから行くぞ!」

ぐいぐいと腕を引かれる。

「え、ちょ、痛い痛い痛い!」

あーもう何なんだよ。人の誘いは断ったくせに。内心悪態をつきながらも、前を歩く三郎の背中を見ながら、俺はついに抑えがきかなくなって、頬を緩ませた。


つづく

一度は書きたいありがちネタとツンデレ三郎。

2012.5/16

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