ただただ暑い

女竹、ごったけ風味、捏造

○ただただ暑い

「兵助、ここってこの公式?」
「あぁ、そうだよ」

中間テストまであと一週間。勉強に自信の無い八左ヱ門のSOSを受け、勘右衛門の家で勉強会をしている。ただでさえ暑い時期なのに、今朝方降った雨の影響でいつもより蒸し暑かった。節電も兼ねてクーラーと扇風機の二機回し。部屋中を巡回する涼風がとても気持ちがいい。雷蔵とお揃いの、亜麻色の髪が頬を擽った。

「数学はそんな感じで大丈夫そうだな」
「じゃああとは・・・・古文お願いします」
「古文は雷蔵が一番得意だったよな」
「あーでもないこーでもない」
「ダメだ。どうやって教えようか迷ってる」

兵助がふると、迷い癖が弱点の雷蔵は、優しく丁寧に教えるべきか、甘やかさずスパルタで教えるべきかを迷っていた。こうなっては止めない限り、小一時間は優に悩み続けるだろう。

「おーい雷蔵やーい。もどってこーい」

八左ヱ門が声をかけているが、全く反応がない。

「仕方ない、休憩入れるか」

俺は雷蔵の肩を揺すった。

「え!?あ、三郎?」
「休憩にするぞ」
「わかった」

じゃあおやつを持ってくるね、と勘右衛門は嬉しそうに部屋を出ていった。ここは甘党な彼の自宅だから、きっと甘いものが出てくるのだろう。チョコレートや飴類は溶けるし気分じゃないから遠慮したいと思う。だがアイスなら大歓迎だ。実は勘右衛門ちに来る前にそれぞれコンビニでアイスを購入したのだが、それは最初に食べてしまったのでもうない。こんな暑い日に狭い部屋で五人も集まっているのだ。冷たいものを食べて暑さをまぎらわせたいとみんな思っているに違いない。案の定、戻ってきた彼の手にはアイスバーがあった。いっしょに持たれていたチョコレート菓子はこの際見なかったことにする。

「アイスー!」
「バニラ3本とチョコ1本とストロベリー1本、みんな何がいい?」

何でそんな微妙な数なんだ。

「えーとえーと」
「雷蔵と俺はバニラでいいよね?」
「えーと、あ、うん」

また雷蔵が本格的に思案しはじめる前に選んでやる。雷蔵は基本好き嫌いはしないから、何を選んでも問題はないはずだ。そして俺が雷蔵と同じ味がよかったので、唯一複数あるバニラ一択。すると残るは各味一本ずつ、さあ誰が何をとるか。

「勘右衛門とはっちゃん先に選んでいいよ」

兵助が紳士的にそう言うと、八左ヱ門は元気よくストロベリー!と手をあげた。お前、普段の授業中にそれやったら先生がよろこぶぞ。

「おっけー。ハチったらチョイスが女の子だね。兵助、俺チョコがいいんだけどバニラで」
「いいよ」
「バニラだとかろうじて豆腐に見えるもんね」
「勘右衛門・・・・」

袋を破いてアイスを一舐め。冷たくて甘い普通のバニラアイスだ。隣の雷蔵は顎をもごもごさせている。あぁ、雷蔵は豪快にかじって食べるのだった。カッコいい。アイスの食べ方にも性格が出る。他の三人にも目をやると、兵助は俺と同じように丁寧に舐めていて、八左ヱ門は両手で棒を持って小さくかじりながら食べていた。暑さに頭をやられたのか、それとも数学の公式にやられたのか・・・・可愛いなおい。小動物か!勘右衛門は四角いアイスの四つの角をがじがじとかじり、舐めながら丸くしようとしていた。普通に食べればいいのに、変なやつ。見てて飽きないけど・・・・。

「なぁなぁ三郎」
「あ?」

突然、向かい側に座っていた八左ヱ門がこちらを見た。

「これ一口あげるからバニラ一口ちょうだい」
「あぁ、別にかまわな・・・・」
「はっちゃん!同じバニラなら三郎のじゃなくて俺のが!」

かまわないけど、と続けようとした言葉を遮り、兵助が声を上げる。

「いや、兵助のはだいぶ舐められてるからやだ」
「やだ!?」

確かに、丁寧に丁寧に舐められた兵助のアイスは全体的に舌の跡がついている。それに比べて俺のは、みんなを観察していたためか、まだほとんど舐めていない。ちなみに雷蔵は、すでに食べ終えていた。兵助と同じ理由できっと勘右衛門のチョコも食べないだろう。

「ほれ」

八左ヱ門の方にアイスを差し出す。それをパクリと一口食べて、今度は八左ヱ門が差し出してきたストロベリーを俺が小さくかじる。うん、ストロベリーもさっぱりしていてなかなかおいしいな。恨めしげな視線をよこす兵助の横では、勘右衛門がアイスをくわえながらチョコレート菓子の箱を開けていた。おい、せめて食い終わってる雷蔵に開けてもらえ。そのチョコレート菓子は、11月11日を記念日にしている細い棒状のものだった。

「ふぉえ、ふぁいひんはわっへんら」
「え、何て?」
「アイス食いながらしゃべるな」

行儀悪いぞ、と注意をすれば、アイスを口から離して悪い悪いとへらへら謝ってきた。

「これ、最近ハマってんだ。って言ったの」
「ハマってんの?」

あー、そういやここんとこ毎日鞄に入ってたな。と兵助が呟く。

「なんか久しぶりに食べたらおいしくてさー」
「わかるわかる。あと急にあれが食べたいこれが食べたいって」
「なるなる!さすがハチ、わかってる〜」

なんだろう。八左ヱ門と勘右衛門の周りに花が舞っているように見える。と、そこに雷蔵が加わった。

「あれ?でも勘右衛門、ちょっと前には棒付きキャンディにハマってるって」
「うん。ハマってたんだけど、いまはこれが勝ってます」
「へー」
「ちなみにキャンディの前はフルーツグミでした〜」
「「あーそうだ、食べてたー!」」
「ね」

好きなお菓子がころころ代わる勘右衛門。う〜ん、さすが超甘党、選ばれるお菓子がみんな甘いものばかりだ。基本的に甘いものをあまり食べない俺と兵助からすれば、よくそんなものばかり食べれるものだと思う。

「でも勘ちゃんって、食べても太らないよね」
「そう?」
「羨ましい。女の敵だ・・・・」
「あはは。ハチは少しぽっちゃりして・・・・むぐぅっ!」

兵助が慌てて勘右衛門の口をふさいだ。グッジョブ兵助!けして太くはないが、周囲の女子よりふくよかな胸とふにふにとした感触の体に、八左ヱ門はコンプレックスを感じているのだ。刺激してはいけない。

「・・・・ぽっちゃりして、何だって?」
「はっちゃん、それは忘れろ!」
「勘右衛門に悪気はない!」
「なおのこと悪いわー!うぅ・・・・これだから脂肪のつかない男どもは・・・・!」

可哀想に半泣きである。ダメだ、フォローのはずが裏目に出た。さすがに勘右衛門もまずいと思ったらしく、どう弁解をしたものかと焦っている。と、なりゆきを見守っていた雷蔵が口を開く。

「でも僕は、そんなハチが大好きだよ」
「・・・・雷蔵」
「みんなもそうなんだよね。勘ちゃんも、いまのハチが大好きだって言いたかったんでしょ?」

にっこりと笑って俺たちを見回した。

「あ、うん!そうそう!ぽっちゃりしたハチが大好きってこと」
「・・・・あんまり嬉しくない、けどまぁいいや」

この後、俺もみんなのこと大好きだ、と続けて言った八左ヱ門に俺たちは四人そろって飛び付いた。

おわり

これでもごったけと言い張る。
今更ですが、我が家の現パロ三郎の一人称は『俺』です。

2012.5/15

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