会いたい気持ち

鉢竹

○会いたい気持ち

七夕の伝説。働き者だった織姫が、彦星と結婚してからラブラブすぎて仕事をしなくなった。だから織姫の父が二人を引き離してしまう。それを可哀想に思った織姫の母が助言をして、一年に一度だけの逢瀬を許された。と、簡単に言ってしまえばそういうことだ。そう言えば、幼い頃に教えられた、七夕に雨が降ったら天の川が増水して二人が会えなくなる。という我が父の嘘を信じていたがために、中学生の頃までこの時期は憂鬱だったな。

―回想―

7月6日、七夕前日。中学校の教室の窓から見上げた空は曇っていた。天気予報によると三日ほど雨が続くらしい。俺はため息を吐いた。

「年にたった一度なのに・・・・」

雨の神様は意地悪だ。そう一人ごちる。

「なんだハチ、お前まさか織姫と彦星の心配してるのか?」

誰もいないと思っていた背後から声がかけられた。

「三郎。あれ?さっき雷蔵と帰ったんじゃ」
「あー・・・・忘れ物、した、から。雷蔵は先に帰ってもらった」

目を泳がせて三郎はそう言った。

「お前は、帰らないのか?」
「帰るよ。少し考え事をしてただけだ。一緒に帰ってもいいか?」
「別に構わない」

帰り道、三郎に考え事とは何かと問われて答える。天の川が増水してしまったら二人が会えなくなるのに、明日から三日ほど雨が降り続けるという予報が当たったら、雨の神様は意地悪だ、と。すると三郎は大笑いした。

「ハチッ、おまっ、お前幼稚園児じゃあるまいしっ・・・・はははははっ」
「な、何だよ!」

一頻り笑い尽くして、三郎は急に真面目な顔になった。

「優しいよなハチ」
「は?突然なに?」
「いや・・・・天の川は星の川であって水じゃないから、雨で増水なんかしないし、そもそも雲の上だから、雨の影響は受けないんじゃないか?」
「え・・・・?あ!」

確かに!よく考えてみればその通りだと、当時の俺は、三郎の一言で随分気持ちが楽になったのを、いまでもよく覚えている。自分のことじゃないのに、よほど織姫と彦星に入れ込んでいたのだな。

―回想終了―

あれから七年経過して、大学生になった俺と三郎は、なんと恋人関係になっていた。しかし、通っている大学が、双方地元を中心に東西に分かれているためなかなか会えず、前に会ったのが正月だ。織姫と彦星よりは会う頻度は多いものの、それでも愛する人に会いたいときに会えないのはつらい。

「電話したら迷惑かな」

せめて声を聞きたいと携帯を手で弄ぶ。時計は10時を差していた。風呂に入ったり、大学のレポートを書いていたり、もしかしたらすでに寝ていたりする可能性もある。何だって今日はこんなセンチメンタルになっているのか。おそらく、七夕デートをするという大学の友人カップルにあてられたのだろう。会いたい。デートなんかしなくていいからただ三郎の隣にいたい。あぁ、今日の俺はおかしい。ピッピッと端末を弄る。画面に三郎の番号が映し出された。あとはコールするボタンを押すだけ。指がのびる。

「っ・・・・が、柄じゃねぇよな」

ため息を吐いて、そのまま布団にダイブした。ムリムリ、迷惑かもしれないし、声を聞いて余計に寂しくなるかもしれないからやめよう。

「三郎ぉ、会いたいよぅ・・・・」

うー、と唸りながらそう吐き出し、大きく息をはいてなんとか気持ちを抑えた。

『ハチ?ハチッ!?何だどうした!?』

目を瞑ると、三郎の幻聴が聞こえてきた。何だか焦っている様子。しかも鮮明な声ではなくて、まるで機械を通したかのようなかすれ具合である。

『おいハチ!返事しろ!してくれっ!ハチッ!!』

あれ?なんかおかしいと感じて、ふと手元の携帯を確認すると・・・・

「通話中って・・・・!」

慌てて耳にあてる。

「三郎!?」
『ハチ!何だよ何があったんだ!?』
「いや・・・・ごめん。電話かけるつもりなかったんだけどボタン押しちゃってたらしくて」
『そうか、じゃあ何かあったわけじゃないんだな。何も返答がないから焦ったぞ』
「ホントごめん」
『で?』
「え?」
『間違えて押してたということは、俺に電話でもかけようとしてたんじゃないのか?』
「・・・・」
『会いたいって聞こえたぞ』

ただ声が聞きたかっただけだから、もう目的は達成されている。

「三郎の、声聞きたいなぁって。そ、それだけ!」
『ふふふっ』
「三郎?」
『俺もさっきそう思ってたところだ』

ピンポーン

玄関のチャイムが鳴った。電話の中でもチャイムが鳴った。

「まさか・・・・」
『開けてくれよ』

ドタバタと下の階の住民に迷惑だなと思いつつ玄関へ走る。もともと鍵は閉めていなかったから、そのまま外開きの扉を押した。

「ようハチ。久しぶり」

そこには、会いたいと願っていた三郎が、両手を広げて立っていた。俺はそれに応える余裕もなく、腕の中に飛び込んだ。

おわり

はじめてまともにやった行事モノがこれだよ(´ー`)┌
ベター。

2012.7/7

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