12月28日
 夢が途切れた時、自分の寝間着が汗でぐっしょりと湿っていた。真冬の山奥なのに、だ。寝ながら叫んでいたのかもしれない。声が掠れ、喉は鈍く痛んだ。夢の内容はあまりよく覚えていない。けれど、私の悲鳴、迫る鉄パイプ、落ち葉の中に倒れ込む幸村、そしてあの白い指を絞める感覚だけは鮮明に覚えていた。
 12月28日、合宿6日目。とうとう明日の夕方には帰るというところまできていた。夜明け前の5時に四畳半の部屋で携帯の目覚ましが暴れる。伸ばした腕を冷気が突き刺した。今日ほど布団から出たくないと思ったことはない。湿った寝間着を早く脱ぎたいのに、この生ぬるい空気の中でずっと寝ていたかった。けれどそうしている間にも携帯のアラームがどんどん大きな音をあげる。
 全身がだるかった。頭が鐘を打つように断続的に痛み、手足がとても重い。鉛のような右足を引きずりながら、なんとか着替えて廊下へと出る。窓の外は粉雪が降っていた。積もってはいない。どうやら降り出したばかりのようだ。
 そういえば今日は雪が降ったり止んだりするとオーナーが言っていたっけ。寒いはずだと身震いしながら洗面所へと向かう。人気のない暗がりの廊下はひどく心を不安にさせる。
『千代田さんには不二の身代わりになってもらいたい』
『悲劇のヒロイン気取りも大概にしろよ、お前はただの悪役じゃき』
『……結局オレたちは、手塚がいないとなんもできない……っ』
『焚き付けるのは俺たちの仕事だ』
 気持ち悪い。頭の中でいろんな問題がぐるぐると回っている。後回しにすることで目を背けた立海のこと。青学の先輩たち。不二が置かれている状況。手塚くんに対する菊丸の思い。そしてそれらが、手塚くんの発言によって一気に回り始めている。
 焚き付ける。つまり、彼らが不二を煽って何かをさせるということ。
「あー、もう……」
 掌の肉が厚い部分でこめかみを叩く。漏れた声はガラガラでおばあさんみたいな声だった。どうやらあまり体調が良くないらしい。思考が暗い方へ暗い方へと進んでいく。決めたじゃないか。私は所詮臨時の雑用係。今は乾くんに言われたとおり不二の代わりにおとりになって、先輩たちの気を引くんだ。そしてできれば、手塚くんが言ったとおりに不二のブレーキ役になるんだと。
 元々、いろんなことを同時進行で気にしていられるほど器用でも利口でもない。このところ大人しいあいつらを嵐の前の静けさと思い、四六時中警戒すること。それが今の私に出来る精いっぱいのことなんだと自分に言い聞かせる。
 蛇口を捻り、冷水が姿を現す。刺すような冷たさに耐えながら、手を水温に慣れさせる。そしてゆっくり顔を洗いながら、昨日菊丸から聞いた青学テニス部のことを考えた。
 手塚くんはプロになりたかった。だから昨年のU-17合宿を途中で切り上げ、単身ドイツへと向かった。そして言葉の通じない国で夢を追いかけている。だったらなんで? どうして自分に怪我を負わせるような場所で一人戦っていた? 最初からどこかのテニススクールに所属して、そこから世界を狙うことだってできたはずだ。
 いいや、たぶんプロを目指すうえではそっちのほうが近道。
 結果的に彼の目標に賛同する仲間はできた。でも菊丸が言ってたように、最初はきっと彼のことを怖がったりする人たちばかりだったはずだ。先輩に逆らって、部の決まりごとを厳しく再編して、みんなから恐れられて……。割に合わないじゃないか。どうして彼は、青学テニス部で全国制覇することにそこまでこだわったの?
 部活ってなんなんだろう。
 私は部活動というものを真面目に取り組んだことがないから分からない。ただ、手塚くんの得体の知れない使命感は少し怖いと思った。人から好かれることは望んでいない。自分の夢を叶えることも視野に入れていない。それなのに彼は必死だった。どうして?
「たきつけるのは、おれたちの、しごと……しごと……?」
 言葉のアヤだったかもしれない。でも、友達に対して『仕事』ってどういう意味だ。それとも、手塚くんは不二のことを友達だと思ってないの? 青学テニス部を辞めてプロになろうとしている今でも、彼はまだ青学の部長で、不二は部員の一人なのか。部員のスランプをどうにかするのが部長の仕事ってことか?
『手塚は正解だったな。こんなチーム、早々に見捨てて』
 不二は手塚くんがいなければ選手として復帰できないの? 青学テニス部は、手塚国光がいなければ活動が危ぶまれるの? 何かが違うと思った。それでも手塚くんが来て、不二の状態がいい方向へ進んでいるのは事実。菊丸はそれがすべて手塚くんのおかげだと思い込んでいる。私だってだいたいそう思ってる。そして、手塚くんも周りの期待に応えようと、不二をけしかけて何かしようとしている。たぶん、青学に今起こっている問題を何とかしようとしてくれているんだ。
 八方塞がりの状況を見て、彼は自分が何とかしなければと行動を起こす。実際、なんとかなる。けれどそれがまた、周りの人間の苛立ちを煽っていく。

 自分が解決できなかった問題を、ひとりの万能人間が乗り越えていく。そのことに、多くの凡人が羨んで、焦る。どうして自分にはそれができないんだと、己を責める。
 菊丸が手塚抜きでの全国制覇にこだわり、乾くんが関係のない女子を巻き込むような無謀な賭けに出る。

 あいつは特別だから。そう言って万能人間を特別視して割り切るには、ここには負けず嫌いが多すぎた。あいつに出来て俺にできないはずがない。そう意欲を燃やしては、理想と現実がかけ離れていってまた焦る。

 到着時に真田がとても不機嫌だったことも、跡部のあの問題発言も、全部全部繋がっているように思えた。手塚国光が悪いだなんて言わない。不二が今日から練習試合に混ざると発表されて漏れた不満や、柳があの時『何故、よりにもよって青学なんだ』といったわけや、白石くんが不二の復活にこだわっていたあらゆる言動、菊丸が言ってたU-17合宿で感じた部活組の焦り。つまり、そもそもこの合宿が開かれた意味だって。
 私がバレエをできなくなった理由も、たぶんぜんぶ同じなんだ。
 全身が燃えるように熱かった。まだ夜は明けない。冷水のような空気に包まれて、私はとうとうその場にしゃがみ込んだ。どうして自分の気分がこんなに暗くなっているのかが分からない。ただ、この合宿にはあまりにも負の感情が集まりすぎている。そう思った。
「おい、見ろよ」
 どれくらいそうしていただろう。ぼーっとした頭で聞き取ったのは、そんな男子の声だった。
「何やってんだよこの女」
「さぁ……。おい、てめぇ」
 乱暴に揺さぶられる。しゃがんだ状態からまるで糸の切れた操り人形のように倒れ込む。手足を無造作に投げ出した私を見て、彼らはあからさまに引いていた。
「なんだこいつ、キモッ……」
「つか、顔真っ赤じゃね?」
「……風邪ひいてんのか?」
 私の手を掴む誰かの手がひんやりしてて気持ちよかった。不二と同じ場所にマメができていた。視界がぼやけて顔の確認ができない。けれどたぶん、先輩たちなんだろうなと思った。
 逃げなきゃ。なにも問題起こしちゃいけないんだ。そう分かっているのに、体は動かない。
「……なぁ、コイツ犯したりしたらさすがに騒ぎになるんじゃね?」
「っ、おい!?」
「正気かよ、捕まるぞ!?」
「別にそれを言いふらしたりなんかしねーよ。ただ不二にだけ言うんだ。そしたら、アイツがオレたちに殴り掛かってジ、エンド。どうだ?」
 ジャージのファスナーに手が掛かる。男の左腕が私の上半身を軽く浮かせる。逃げなきゃ、逃げなきゃ。
「おい、さすがにそれはヤバいって! ただでさえ風呂に閉じ込めるのもかなりギリギリだったのに……」
「っるせぇな!! お前らはじゃあ指銜えて見てろよ!! あんな、あんな一回負けたくらいで尻尾まいて逃げたヤツが……あんな才能だけのヤツがレギュラー続けるってんなら、オレはそれを道連れにテニス辞めてやるよ!!」
 乱暴に抱きかかえられて、洗面所横のランドリーへ連れ込まれる。乾燥した空気が喉を容赦なく攻撃した。視界がさらに滲んでいく。ファスナーが下げられていく。
「……せっかく、手塚がいなくなったと思ったのに……」
 目の前にいるのは、劣等感の塊だ。
 あの日、幸村の首を絞めた私だ。

 彼の手を握った力は、お世辞にも強いものではなかった。けれど彼はハッとしたように動きを止める。冷たいものを欲する痛んだ喉に鞭を打った。
「……あなたが……わたしを、レイプ、しても……なにも、かわらないっ」
 めちゃくちゃに罵倒して、殴ってやりたかった。昔の自分を棚に上げて、彼らを絶対的な悪だと思い込んでいた昨日までの私を。
「はぁ? なに言って……」
「なにも、かわらない……ただ、もっと、もっと……じぶんがきらいになる、だけ……」
 乾いた咳が口から漏れた。自分の考えていることがよく分からなくなる。会話をしようとするな。自分の中にある考えを覚えていられるうちに言ってしまえ。たとえこの身がどうなったとしても。
「あなたたちがいま、かかえてる……れっとう、かん。くやしがったり、うらやんだりするきもちが、ふじにはほとんどない……。どちらかといえば、むけられることに、なれすぎてるきがする……」
「なに知ったような口きいてんだテメェ」
「じぶんのつごうでやめて、じぶんのつごうでまたもどってきて……。そこにあるのは、どこまでもじゅんすいなどうきだけで……。あなたたちがいっぱいなやんで、くるしんでるときに……すごくすごく、ふじはきままにみえて……むかついたとおもう」
 挫折を味わった人は、どんな人だってその心にどす黒い劣等感が芽生える。みんな、負けるのは悔しかった。自分よりも恵まれている人に嫉妬した。他人が乗り越えられた壁を乗り越えられない自分が悲しくて、自分が解決できなかった問題を解決してしまう人に苛立った。ストイックに目の前の課題へ取り組むことなんてできなくて、だからこの合宿でいろんなことが起きた。
 けれど、不二が抱くテニスへの思いに、そのどす黒い感情はない。他人よりも優れていたいだとか、倒したくてしょうがないヤツがいるだとか、そういった野心はない。そんな彼が強いのか弱いのか、大人なのか子供なのか、私にはまだ分からなかった。そしてそれを一番気にしているのは、きっと不二自身だ。
 意地のためじゃない。神の子を倒すためじゃない。それでも不二はテニスコートへ戻ってきた。なぜか。
 彼が唯一執着しているものが、青学テニス部だからだ。
「……でも、おもってることやじつりょくはちがっても……せんぱいはふじと、おなじ、てをしてる……」
「っ……!!」
 震える彼の手を両手でぎゅっと握りしめた。ごつごつとした右手。努力してないわけがない手。劣等感にまみれた手。この人もただ、テニスが好きだっただけだ。試合に出て、勝ちたかっただけだ。みんな勝ちたかった。やるからには一番になりたかった。私だって、なりたかった。自分に出来ないことをやってのけたやつへ、やりきれない思いをぶつけるしかなかった。行き場のない愛情を。
 涙で滲んで、もうすでにそこにいる人の輪郭も見えなかったけれど、ただ一心に握りしめた。
 負の感情を知らない者が他人の嫉妬で容易く潰れることを私は知っていた。あの日私が一瞬でバレエ生命を断たれたように。手塚くんが上級生に腕を痛めつけられたように。だからきっとこの手は簡単に不二を潰せる。だけど私は、この手が悪とは思えなかった。
 思いたくなかった。私もあの日、純粋だった友人を絞め殺そうとしたから。


 人を傷つける方法は無数にある。要するに相手の身体や名誉に危害を加えればいい。けれど、人の心に傷をつける方法は案外少ない。どんなに繊細な人だって、嫌いな人やよく知らない人には防衛本能が働くからだ。
 じゃあ、人の心を傷つけることは難しいか。そんなことはない。相手にとっての大切な人になってから裏切るか、圧倒的な力を見せつけて相手が積み重ねてきたものをぶち壊せばいい。たったそれだけ。
「……起きたか」
「……?」
 自分の体感時間を一気に飛ばされたような感覚だった。気が付いた時には私は自室の布団の上に寝転がっていた。一番最初に目に入ったのは天井からぶら下がった四角い和風の照明。電気はついていない。部屋には夕日が差し込んでいた。そして低い声が聞こえ、首を左にずらした。
「……さな、だ?」
「無理に喋るな。医者曰く、扁桃腺が真っ赤に腫れ上がっているそうだ」
 自分の声は思った以上にか細かった。覗き込んでくる顔はとても懐かしい、少しずれてる心配性の同級生。黒帽子は被っておらず、私の髪質によく似た真っ直ぐで硬そうな黒髪が重力に従って垂れていた。
 その髪の隙間から見えた目には、合宿中に見せていた鋭い眼光はない。間違いなく慣れ親しんだ旧友の優しい目だった。
 それを見た瞬間、思い出したのは気を失うまで考えていたことだった。
 私は咄嗟に顔を手で覆った。唇を噛みしめ、嗚咽が漏れないように力んだ。体を横向きにして丸まる。まるで母親の腹に収まる胎児みたいに。
「千代田?」
「……ごめん、ごめん真田……ごめんなさい……」
 全身が熱かったけど、おでこと頭は冷たかった。氷枕と熱冷まシートのおかげだった。真田がやってくれたのだろうか。だとしたらアンタ、相変わらずお人好しだ。
「わたしっ、幸村がっ……元気な幸村が羨ましかったっ!! なんで、あいつがテニスできて、私がバレエできないのか、理解できなくて……悔しくて……っ! 苦しくて仕方ないのに、心配そうな顔して私に近づく、何も知らない幸村が、ほんとうに、ほんとうにムカついた!! あの頃……わたし、幸村が憎かった……」
 掌が湿っていくのを感じながら、私はガラガラの声でそう捲し立てた。真田に言っても仕方のないことだったけど、言わずにはいられなかった。私が初めて感じた劣等感。病を克服できた彼と、克服できない怪我を負った私。どうして私が? って思った。
 誰よりも幸村の近くにいた真田を見た途端、その気持ちを言わざるを得なくなってしまった。
「……たるんどるな、貴様は」
 呆れた様な、それでも優しい叱咤の声が聞こえてきた。ああ、やっぱりそう言うのか。
「そんなこと、俺はあずかり知らん。まずはその老婆みたいな声を治してから直接幸村に言え」
「……もう遅いよ」
 どこまでも真っ直ぐで純粋な皇帝は、真っ向勝負にこだわる。でもそれは私みたいな逃げた卑怯者が一番怖がる戦い方だった。
「一生、恨んでてくれていい。それを覚悟で立海を出たの。仁王に悪役って言われたって、柳に冷たい目で見られたって、たとえ真田に殴られたって。……私、幸村に今更ぶつかる勇気も元気もない……」
 そう言い終えた瞬間、誰かが私の被っている布団をめくり上げた。びっくりして目を覆っていた手を退けると、着ていたジャージの胸倉が思いっきり掴まれる。下半身を挟むように跨れ、ぐわりと上半身を引っ張られる。中途半端に床から浮いた状態で見上げていたのは、鋭い目の仁王雅治だった。
「い、いたの……?」
「おう、おったよ。お前さんが目を覚ます前からずっと」
 真田は俯いたまま動かない。とりあえず放してもらおうと彼の手を揺さぶるけどビクともしない。私は諦めて仁王を見上げた。冷や汗が首筋を伝う。
「お前さんが煽ったやつは、今必死にその劣等感と戦っとる」
 やがて、仁王が低い声で告げたのはそんなことだった。
「えっ……?」
「午後一番に不二とやって、今、あの手塚国光と試合しとるぜよ」
 顔は思い出せない。それでも、あの努力家な手の感覚を思い出した。私がぎゅっと両手で握りしめた時、息を呑んだ音が聞こえた。とうとう高校でも引退試合ができない彼が、いま、彼のレギュラーの座を奪ったふたりの天才と。
「……ていうか、仁王……もしかして聞いてた?」
 私がそう問いかけると、仁王はその不機嫌そうな口元をますますへの字に曲げて目を細めた。
「俺が、なんでお前さんへ必要以上につらく当たるか分かるか?」
 首を振る。ジャージの襟が首の後ろに擦れて少しヒリヒリした。
 そして、仁王はもっと顔を近づけて私にガンを飛ばした。
「……俺が、お前さんに劣等感を抱いてるからぜよ」
 金色の瞳が鈍く光る。その虹彩には私の驚いた顔が小さく映っていた。
「どいつもこいつも女の前ではカッコつけたい馬鹿ばっかりやからのう。だからお前を女と思ってない俺が言ってやる。……情けない話ぜよ。小娘一人いないだけで、神の子のご機嫌もとれやしない」
 そう言うと、仁王は乱暴に私を放した。思いっきり背中から布団へダイブするが、痛みはそれほど感じなかった。冷たい氷枕が熱っぽい頭を包み込む。
「……すまんのう。俺のこれも、お前さんやあの男と同じ、ただの八つ当たりじゃ」
 そう小さく呟いて、彼は部屋を後にした。
 すっかり引いてしまった涙の残滓を拭いながら、私はゆっくり上体を起こす。こちらを真っ直ぐ見つめる真田と目が合った。
「……真田もやっぱり、私が何か行動を起こして変えるべきだと思う?」
「さあな」
 真田の言葉はいつも私にとって真実に近い。それはたぶん、私のことを誰よりも冷静に見ているからなんだろう。
「どんな障害があったとしても、俺たちは三連覇を目指す。そのためには幸村が心身ともに万全のコンディションであることが望まれるが……少なくとも、幸村の精神的不調をお前の所為にするつもりはない。お前は立海テニス部には関係ないからな」
 だからこそ、誰が言うことよりも耳が痛い。
「ただ、今のままでは……」
 柳よりも厳しく、幸村よりも公平な人。
「俺は幸村の友としてお前を許せず、お前の友として幸村を許せん。それだけの話だ」

 真田は静かに立ち上がった。武道をやっている彼の所作には無駄がない。流れるようにその場を後にして、そして扉を閉める前に少しだけ振り返った。
「……千代田」
「うん」
「青学では、上手くやっているか?」
 彼らしくない、小さな呟きだった。
 引っ込んだはずの涙がこみ上げる。けれどそれを懸命にこらえて、自分ができる最高の笑顔を浮かべた。
 きっと、真田にはたくさん迷惑をかけた。私がひどいことをして、幸村にどんな影響がでたのか詳しくは知らない。それでも幸村がどうにかなる時、一番心を痛めて苦労するのはいつもこの男だ。私一人に責任を押し付けて、責め立てていればどれだけ気が楽になるだろう。
 それでも彼は全てを知って、それでも私を友達だと思ってくれている。
「……ありがとう! うまくやってるよ……いじめられることもないし、ケンカだってもうしてないよ……。友達が、できたんだ……」
 真田は一瞬だけ、笑った。
「なら、いいんだ」
 扉はそっと閉められた。


prev next

bkm
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -